ウエイブスタンの怪物 4ー②

「サスキンス捜査官、お願いできますか?」


 ロベルトの言葉に、ビルは「はい」と答え、博士に連絡を取り始めた。


 そしてものの一分もしないうちに、笑顔でロベルトを見た。


「了解が取れました。すぐに現物を送って欲しいとのことです」


「お願いします」


 ロベルトはビルにビニール袋を手渡した。ビルがそれを内ポケットに納める。


「あっ!」


 と、平賀が大声を発した。


 ロベルト達が平賀を振り向くと、平賀はノートパソコンの画面を三人に向けた。


 それは割合凝ったホームページで、『ウエイブスタンの怪物ツアー』というタイトルと、深い森の写真、ツアーの紹介文などが書かれている。


「主催者は未確認生物研究会。代表はトム・ホワイト氏。研究会の住所は……」


 平賀は住所を地図ソフトに入力した。


「ここから程近いですね。車で二十分ぐらいでしょうか」


「未確認生物研究会という名前は怪しいけど」


「面白いじゃない」


 ビルとロベルト、エリザベートが口々に言った。


「そして皆さん、ここにトム・ホワイト氏のSNSへのリンクがあります」


 平賀は少し勿体ぶった口調で、リンクをクリックした。


「ほら。トム・ホワイト氏のアイコンを見て下さい」


 平賀の指すアイコンを見た三人は、ハッと息を呑んだ。


 トムの用いているアイコンは、牙のある山羊の頭に、顔の半分の骨が剥き出しになっているというイラストであった。


「カメラの映像にそっくりだ」


 ロベルトが呟く。


「ええ、そうなんです。他の目撃談や怪物の噂は、どれも具体性がありませんでしたが、ここは違います。少なくともトム・ホワイト氏は怪物を目撃したか、目撃者から話を聞いている筈です。

 電話番号も載っているので、早速、電話をしてみます」


 平賀がスマホを取り出した時、扉がノックされた。


「今度こそ警官かな」


 ロベルトが立ち上がる。


 平賀はスマホを持ったまま、窓辺の方へ移動した。


 ロベルトが開いた扉の向こうにいたのは、執事のエイベルだ。


「失礼致します」


「ええ、どうぞ」


 エイベルは深く会釈をして室内に足を踏み入れ、そこにいるビルとエリザベートの姿を見て、少し驚いた顔をした。


「おや、サスキンス様、エリザベート様、こちらにいらっしゃったので?」


「ええ、神父様方と話をしていました」


 ビルは素直に答えた。


「左様でございましたか。先程、お二人の客室を訪ねた時に、お返事がございませんでしたので、お休み中かと思っておりました」


 エイベルは小さく咳払いをして、話を続けた。


「いえ、特別な用事という訳ではございません。長くやしきにお引き留めしておりますので、皆様方にご不自由はないかと、尋ねて回っております。飲み物や軽食は如何でしょうか? マッサージやエステのスタッフも手配できますが」


 ロベルトがビル達を振り返ると、二人は首を横に振っている。ロベルト自身も特に不自由は感じていなかった。それよりエイベルに聞きたいことがある。


「お気遣い有り難うございます、エイベルさん。ところで、警官達の様子は?」


「さて、よくは存じませんが、皆様、監視室の前で話し合いをされているようです」


「エイベルさんは、防犯カメラの映像を見ましたか?」


「いいえ」


「お見せしますよ」


 ロベルトは平賀のノートパソコンで、防犯カメラの動画を再生した。


 それを見たエイベルは身震いをして、両手で自分の両腕を抱いた。

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