エレイン・シーモアの秘密の花園 1-②
※ ※ ※
エレインは、ウォール街から次の仕事場であるミッド・タウンへと車を走らせながら、これまでの人生を漠然と思い出していた。
大型オフィスビルの駐車場に車をつけ、その最上階にあるペントハウス専用のエレベーターへと向かう。
仁王立ちしていたガードマンがエレインに軽く挨拶し、エレベーターを機動させる。
足早にエレベーターへと乗り込んだエレインは、ペントハウス一階のボタンを押した。
エレベーターの扉が開くと、見慣れた光景が広がっていた。
二百平米あるリビングのあちこちに女達の服が脱ぎ捨てられ、空になったシャンパンのボトルやグラスが床に転がっている。
エレインは溜息を吐きながら、ベッドルームへと移動した。
すると四人の裸の女に取り囲まれ、ルッジェリは満足げに眠っていた。
ベッドルームの空気は、まだ酒臭い。
エレインは大股で、ルッジェリの眠るベッドに近づき、その顔をまじまじと見た。
最初の頃こそ、彼の持つ桁違いの財力と権力に目を見張ったものだが、彼の秘書として長く働いてみて分かったことは、ルッジェリが
仕事は一通り出来るものの、彼は、エレインの思い描くようなセレブではない。
朝、自分で起きることすら出来ない子どもなのだ。
エレインは枕元のリモコンを手に取り、カーテンを全開にした。
ルッジェリと女達が、眩しそうな顔で目を覚ます。
「だ、誰? 貴女、誰なの?」
一人の女が迷惑そうな声を発したので、エレインは思いきり上品なイギリス訛りで答えた。
「それはこちらの台詞です。私はエレイン・シーモア。ルッジェリ様の秘書です。貴女はルッジェリ様と、どのようなご関係でしょうか?」
「そ、それは……」
エレインの圧に押された女が言い淀んでいると、ルッジェリが面倒そうに髪をかき上げ、上半身を起こした。
「そう脅すなよ、エレイン。直ぐに帰らせるから」
「そうして下さいますか? 十二時から会議の予定がございますので」
「また会議か……。怠いなあ…………。私抜きじゃ駄目なのか?」
「ご冗談を、ルッジェリ様。駄目ですよ」
ルッジェリは、ふうっと溜息をついた。そして女達を軽く抱き寄せた。
「皆、私の為に昨日は有難う。実に楽しいひと時だった。だけど、そろそろ帰ってくれ。聞いてのとおり、仕事なんでね」
女達は不安そうな表情で、ルッジェリのベッドから抜け出していく。
「リビングに脱いだ服は、ちゃんと着て帰って下さいね!」
エレインは女達の背中に、そう声をかけたのだった。
ルッジェリが欠伸をしながら立ち上がり、洗面所に向かう。
シャワーと髭剃りを済ませたルッジェリは、日焼けした肌に、ブロンド。獅子のような威厳を漂わせて現れた。
エレインがほっと胸を撫で下ろす瞬間だ。
「エレイン、今日の会議の内容は?」
ルッジェリが着替えをしながら訊ねる。
「はい。ダイヤモンド・ライン社の経営実績の報告ならびに、各種M&Aに関する協議です」
「ふむ。詳しい資料は?」
「はい、こちらに纏めてあります」
エレインが作成した資料に、ルッジェリは素早く目を通した。
「成る程、分かった。君の仕事ぶりにはいつも感心するよ。
そこで改めて、君に一つ、頼みがある」
ルッジェリは爽やかな笑顔で、エレインに歩み寄った。
「はい、何でしょうか?」
「以前から話していた、ジュリアの件だ。私は何としてでも、ジュリアの弱味を握っておきたい。普段の業務は第二秘書以下に引き継がせ、君には暫く、そちらに専念して貰いたいのだ」
ルッジェリは囁くように、エレインに告げた。
その瞬間、エレインはめくるめく快感を覚えずにはいられなかった。
ジュリア・ミカエル・ボルジェ。彼はヨーロッパ貴族の血を引く正真正銘のセレブであり、ルッジェリさえも脅かす存在である。
セレブ同士の腹の探り合いがどのようなものか、彼にどんな秘密が隠されているのか、実に興味深い。
「畏まりました」
エレインは
(続く)
◆次の公開は2022年1月20日の予定です
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