スパイダーマンの謎 2-①

 3


 ロベルト・ニコラスはキッチンに立ち、早速、料理に取り掛かった。


 まずはピザ作りである。


 ポットで湯を沸かすと、強力粉、薄力粉、塩、ドライイーストを量ってボールに入れ、お湯をそれらにめがけて注ぎ入れ混ぜる。そして、粉っぽさがなくなりひとまとまりになったら、さらにそこに、オリーブオイルを入れて混ぜ込んだ。


 オリーブオイルが全体に馴染めば、まな板の上に出して、色が均一になり表面がつるんとするまでこねていく。


 このこね具合でピザの食感が変わるから、コツのいる作業だ。


 ロベルトが目指すのは、胃弱な平賀・ヨゼフ・庚が食べやすい柔らかくて薄い生地である。


 その為、最初は全力で、その後は優しくこねていく。


 こね終わったピザの生地をボールに入れてラップをかけ、二十五分発酵させる。生地が一・五から二倍の大きさになれば発酵完了だが、その間にピザの具材の用意だ。


 作るべきピザは、チーズをかけない、あっさりとしたマリナーラだ。


 マリナーラとはイタリア語で「船乗りの」という意味をもっている。


 マリナーラの起源は、十八世紀の後半、ナポリの漁師たちがパン屋さんに来て、その場にあったトマトとオリーブオイルで美味しいものを作らせたのがきっかけだと言われている。今ではイタリア人が愛する人気のシンプルなピザだ。


 ロベルトはトマト缶のトマトを潰しながら鍋で煮て、水分を飛ばしつつ、ニンニクとアンチョビをみじん切りにして、そこに投入した。そして、ベランダの家庭菜園で育てているオレガノを七枚程摘んできた。


 生地の発酵を待っている間に、サラダとドルチェを作ることにする。ピザとサラダだけでは食卓が味気ないと思ったからだ。


 作るドルチェは、白雪姫、またの名をレンガと呼ばれるものだ。


 生クリーム、グラニュー糖、ヴァリニッーナを合わせて、泡だて器で角が立つまでかき混ぜる。それを四角い型に流し込み、型底を台にを打ち付けて平らにし、表面に松の実を散らして冷蔵庫に入れる。


 固まったら、その上にイチゴとライムを盛り付ける予定だ。


 続いて作るサラダは、軽いものが良いだろう。


 そこでロベルトは冷蔵庫を開け、パセリの束とミニトマト、そしてモッツァレラチーズを取り出した。


 まずはパセリの束を、ざくざくと一口大に切っていく。


 それをボールに入れ、一分程、電子レンジで加熱した。


 こうすると、パセリのもしゃもしゃした触感が優しくなり、かつ独特の苦みも消えて、爽やかな香りだけが残るのだ。


 その間に、ミニトマトを半分に切っていき、さらにチーズを小さくちぎっておく。

 電子レンジでの加熱を終えたパセリは、氷を張った大きなボールに入れて粗熱を取る。


 そしてドレッシングの用意だ。


 ロベルトは平賀の為にアジアンマーケットで購入した醤油を取り出した。


 醤油とバルサミコ酢、そしてオリーブオイルを同量ずつ混ぜ合わせると、ロベルト特製の和風ドレッシングの完成だ。


 ロベルトは、サラダ皿にパセリをたっぷりと敷いて、その上にミニトマトとモッツァレラチーズを飾り付けた。あとは特製ドレッシングを回しかけるだけだ。


 そしてピザの発酵具合と時計を見ながら、オーブンを熱し始める。


 調理道具を洗ったり、軽く本などを眺めたりしているうちに、発酵はいい具合になったようだ。


 ロベルトは生地をボールから取り出して、クッキングシートの上で直径二〇センチ、厚さ五ミリくらいに丸く広げた。


 ここからが腕の見せどころだ。


 ロベルトは丸く広げられた生地の中心を確認しながら、両手で生地をくるくると回して、職人さながらに薄いピザ生地を作り出した。


 その上に、オリーブオイルをかけ、煮詰めたトマトソースを塗り、オレガノを置いていく。


 あとはオーブンに放り込み、焼き上がりを待つだけだ。


 一息ついたロベルトは、熱心にキーボードを叩いていた平賀の元に、ドレッシングをかけたサラダとワインとグラスを二つ運んだ。


「十五分程待てば食事が出来るからね」


 そう言ってサラダの皿を配膳し、テーブルに置いたワイングラスにワインを注ぎ入れる。


「あっ、はい」


 平賀はキーボードを打つ手を止めた。


「それじゃあ、乾杯だ」


「パーチェ(平和)」


 二人はグラスを交わし、サラダを食べた。


「美味しいですね。とても爽やかです。パセリにこんな食べ方があるとは知りませんでした」


 醤油を入れたからか、平賀の食は進んでいる。ロベルトはニヤリと微笑んだ。

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