ウエイブスタンの怪物 7-②


 歩いていってみて分かったのだが、衛星地図で見ると殆ど真っすぐに見えた道は、所々緩いカーブがあって、前方への視界を遮るように木が茂っている。


 これでは、視覚的にはこの道が、ずっと森の奥まで続いているようには見えない。


 どうりでトム・ホワイトも気付かなかった筈だ。


 そんなことを考えながらものの五分も歩いた辺りから、森の木々は異様な形へと変貌していった。


 生き物の気配すらない死の森。


 それでいて音にならない奇妙な音が聞こえてくるような感覚。


 不気味な辺りの様子に、四人は目を配り、緊張しながら一歩、そして一歩と歩いていった。


 動悸がしてくる。


 まさか、このまま怪物達の巣窟に突っ込んでしまうんじゃないだろうな、という恐怖心が湧き上がる。


 ロベルトは平賀を見た。


 緊張した顔をしているが、満遍なく周囲に目を配っている。


 そうだ。まさかだ。平賀は何時だって、正しくて慎重な人間だ。無闇に仲間達を危険に晒すことはない筈だ。


 ロベルトは気を取り直して、深呼吸した。


 森の中を歩いていく途中、エリザベートは三回麻酔銃を発砲した。


 ビルは二回だ。


 ロベルトも森の茂みの間を駆け回る黒い影のようなものを見た。


 だが、怪物を捉えることは出来なかった。


 平賀は怪物の姿を確認したという場所まで歩いていき、地面や茂みを観察した。


「動物の糞や、足跡、抜けた毛などは発見出来ませんね。状況的に見て、この辺りに怪物がいた痕跡はありません。恐れずに行きましょう」


 平賀はきっぱりと言った。


「だけど、私は確かに見たのよ」


「ああ、私もだ」


 ビルとエリザベートは顔を見合わせた。


「もしお二人の気が向かないのであれば、帰って貰っても構いません。私はこのまま調査を続行します。ロベルト、貴方はどうですか?」


「僕? 僕は君と一緒に行くと決めている」


 そのやり取りを聞いたエリザベートは、ハッと不敵な笑いを漏らした。


「そんなことを言われると、引き下がる訳にはいかないわね。怪物でもなんでも、やってやろうじゃないの」


「私も行きます。お二人だけに危ない思いをさせる訳にはいきません」


 二人の言葉に平賀は頷いた。


「ではここからは、銃の無駄撃ちがないように、確かに相手を撃てると思った時以外、撃つのを止めましょう。銃の音で、相手を刺激するかもしれません」


「分かったわ」


「承知しました」


 四人は再び、森の中を目的地に向かって歩き始めた。


 それは容易な道のりではなかった。


 そして、もうすぐ目的地に着こうという時に、先頭を歩いていたビルの足が止まった。


「どうしたんです、サスキンス捜査官」


 ビルは唇に人差し指を当て、シーッという仕草をした。


 そして残りの三人を奥の茂ったくさむらの陰へと先導した。


「見て下さい。何かの建物です」


 ビルが指さす先に、鉄の柵で囲まれた灰色の建造物があった。


 玄関と思しきところには出入りする者をチェックする為であろう、四角い警備小屋があり、その中に、目つきの鋭い男が座っていた。


 四人はまじまじと、その建物を眺めた。


 下の部分は、真四角な愛想のない建物で、壁にラボラトリーのロゴが入っている。


 そして上部には、建物から三百六十度全方向に向かって、巨大なスピーカーのようなものと、さらにその上には巨大なライトのようなものが並んでいる。


 しかし、ライトは爛々らんらんとは灯っていない。


「何だ……あれは……」


 ロベルトやビル達が茫然としている中、平賀は突然携帯をいじり始めた。

スマホのカメラをリアカメラから、フロントカメラに切り替えているようだ。


 その状態で、カメラを建物に向けた。


 撮影でもしているのかと思ったら、平賀が小さく呟いた。


「やっぱり……」


「やっぱりって、何なんだい?」


「これを見て下さい」


 平賀に差し出された携帯の画面を見てみると、建物の巨大ライトがせわしなく点滅しているように映っている。


「一体、これは…………?」


「恐らく、5P-42フィリンのようなものです」


 ロベルトには平賀の言う意味が分からなかったが、ビルが驚いた表情で振り向いた。


「ロシアの5P-42フィリンのことですか?」


「ええ」と平賀は深く頷いた。


(続く)

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