第4話 12月4日(日)2
神社の脇に大きな池がある。
苔むして手入れもされていない緑色の澱んだ水が溜まる池。
でも、コケが氷に閉ざされて、時が止まった様な幻想的な雰囲気を醸し出す、そんな冬は好きだ。
僕は、境内から池に向かって歩いた。
今朝はそんな池を感じたい気分なんだ。
薄く氷が張ってひんやりとした池。
僕の思っている雰囲気とは違った…でもそんなことはどうでもいい。
池の真ん中に人がうつ伏せに浮かんでいたから…。
それは、不謹慎かもしれないが、僕は…僕には、とても美しい光景に思えた。
白い世界、氷が溶けかけてピーンと張り詰めた空気に靄が漂う。
その視界の中心に倒れている人。
幾度となく繰り返していた他愛も無い妄想、それを超えてきた現実。
僕は壊れているのかもしれない。
これを素敵だと思ってしまっている。
誰かを呼ぼうとは思わなかった。
誰かを呼んでしまえば、この現実は、あっという間にツマラナイ今に塗り替えられてしまう。
それは、あまりにももったいない。
「これは、僕だけの現実なんだ」
僕は池に近寄って、浮かんでいる人を観察した。
死んでいることはすぐに解った。
生きているわけがない。
自分で入って死んだのか?
誰かが捨てたのか?
そんなことはどうでもいい。
重要なのは、この世界の中心は、この死体であり、僕は、その中心に近い場所に存在しているという現実。
素敵なことになる。
僕は確信していたんだ。
これから始まるんだと、僕の人生は、今日、この瞬間から始まるんだ。
「あーーーーーーーー」
冷えた空気を震わせるように僕は叫んだ。
それは間違いなく歓喜の感情だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます