第146話 POWER DRIFT

 玄関の前でタバコを吸う相良。

「相良さん、公安に渡すんですか?」

「渡すも何も…もともと、このヤマは公安主導だろ」

「しかし…」

「いいんだよ、しばらく俺に任せておきなよ」


 中から多少の喧騒が聴こえ、しばらくして桜井敦が公安に捉えられて出てきた。

「いよぉ~久しぶりだ…すっかり大人になっちゃって、少年法は適用されねぇぞ」

「ふん、ただの刑事に成り下がったようですね…ガッカリですよ相良さん」

「俺は、もともとただの刑事だよ、なんだと思ってたんだ?」

「正義の味方かな…なり損ないだけど」

「警察に正義は無いってのが俺の持論でね」

「僕も同意見ですよ」

「公安にはありますよ、御心配なく…では、相良警部、今までご苦労さまでした」

「あぁ、約束は果たしたよな?」

「えぇ…もちろん、アナタの条件通りに本件に対してアナタと花田係長の違法行為は全て無かったことになってますよ」

「ありがとう、まぁ、桜井敦の件は公にはならないから、もともと無いに等しいんだがね」

「ふん、では…」

 立ち去ろうとする公安の刑事に相良の銃口が向けられる。

「何の真似です?」

「桜井敦をコチラに引き渡してもらおうか」

 チラっと公安が上着をまくると、拳銃が桜井敦の背中に突きつけられている。

「バカな真似はよしてください、今なら忘れますから」

「止めてください…相良さん」

 花田の銃口は震えながらも相良に向けられた…。


 しばしの沈黙と硬直状態、それを破ったのは、桜井久美だった。

 ドアから飛び出してきた久美の両手に握られた包丁は公安の背中に突き刺さった。

「逃げて!!敦!!」


 手錠を掛けられたままの桜井敦は、花田を突き飛ばしてエレベーターに乗った。

 扉が閉まる直前

「待っててね相良さん」

 ニヤッと笑い、彼は逃走した。

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