第30話 ミラー

「手鏡…手鏡…」

 一度浴槽に浸かって思い出した。

 裸のまま、部屋に戻って手鏡を持ってバスルームへ戻り、鏡を沈めてみる。

(独り暮らしで良かった)

 裸で部屋をうろついても誰に咎められるわけでもない…寂しくもあるが…たまに楽しく、それが空しい。

「へぇ~」

 手鏡は角度によっては浴槽の真ん中に浮いているようにも見えたりする。

「なんか面白~い」

 浴槽の淵に手を乗せてしばらく色んな角度から浴槽を覗く。

「クシュン」

 身体が冷えるまで飽きることなく眺めていた。

 慌てて入った浴槽のお湯は少し冷めている。

(何してんだろ?私…)

 乱暴に髪を洗い、バスルームを出て、相良に電話する。

 ワンコールが鳴り終わらないうちに電話に出る相良。

「……あの…花田です」

「うん…どうだった?」

 あまりの速さに電話した花田が言葉に詰まった。

「あ…あぁ…角度によっては水の真ん中で浮いてるように見えましたけど」

「ふ~ん、屈折率ってヤツだな…ふ~ん…なにをしようとしたんだろうな…」

「あの…相良警部補」

「ん?あぁ…あのさ、あの神社に詳しい人、誰かいないかな?言い伝えとか?」

「明日、調べてみます」

「それとさ、あの神社で過去にも変なこと無いかな?」

「変な事?」

「もしくは、この街で…でもいいんだけど、失踪とかさ」

「データベースありますけど…明日、署に行きますか?」

「う~ん、気が進まないけど…行くかな」

「じゃあ、明日、9時に迎えに行きます」

「頼むね、おやすみ…あ~大丈夫だと思うけど…風邪ひかない様に」

「はい…」

 電話を机に置いて狭いアパートの真ん中にドカッと座る花田。

(バカってこと?バカは風邪ひかないってこと?)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る