第58話 メーカー

「年代物のストーブですね」

「えぇ…親父が使っていたものですから」

「お父さんも自転車業を?」

「えぇ…まぁ当時は自転車もバイクも売れて修理しながらずっと乗っていたものです…今は自転車は壊れたら捨てるの使い捨てになってますから…ホームセンターで安く買えますから」

「なるほど…使い捨てね~、飽和の時代ですか」

「技術要らずの時代…ですよ」

「なるほどね~、そのうち刑事も判事も要らなくなるんでしょうな、AIとやらに取って代わられるそうです」

「その前に自転車屋が消えますよ」

 崇がスッと灰皿を差し出す。

 軽く手を「どうも」と出してタバコに火を付ける。

「パトカー…禁煙らしいのです…これが、なかなか煩わしい」

「今は喫煙は悪ですからね」

「タバコは?」

「辞めました、もう8年になります」

「立派だ、私は辞める気にもならない」

「意思が強いってわけじゃないんですがね…当時、猫を飼ってまして」

「猫が嫌がる…危ないか?」

「まぁ、そんなとこです」

「今は?」

「敦…息子が拾ってきた猫で…その時点で子猫ってほど小さくも無かった、死にました」

「そうですか…息子さん、動物好きなんですか?」

「さぁ?特に可愛がっていたわけでもなかったと思うが…気まぐれでしょ」

「気まぐれ?その猫…老衰ですか?」

「いや…」

「違うんですか?」

「あぁ…池で溺れたんだ…息子はそう言ってたな」

「池?入鏡池?」

「たぶんね…」

「単刀直入にお伺いしますが~、その…息子さん、敦くん、いや…アナタ、あの池について何を知っているんです?」

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