第59話 12月31日(土)2

「あの…ソレ…猫いるんですか?」

 花田が玄関でケーキを食べながら指さした。

 靴箱の下に猫トイレが閉まってある。

 帰らない花田に呆れて、貰ったケーキをそのまま食べさせている智子。

 花田は、すでに玄関で腰を下ろしている。

「あぁ…3年前に死にました、そのまま置いてあるんです…砂入ってないでしょ」

「……そうですね」

 どうにも相良のように上手くいかない。

「敦くんが飼ってたんですか?」

「いえ、拾ってきたのは敦ですが、あまり面倒のほうは…子供ですから」

「そんなもんですよね、私のお母さんも、私が貰ってきたハムスターの面倒をみてましたよ」

 自分が買ってきたクリスマスケーキ詰め合わせを、そのまま出されて、それを食べながら子供の頃の思い出を語る花田。

「そうですかー、死んじゃいましたかー、思い出があって捨てられないんですね、なんか解ります」

「えぇ…そうですか…」

「敦くん悲しんだでしょう?」

「あの子は優しい子ですから…目を放した隙に…」

「事故ですか、猫はね…飛び出しますからね」

「いえ、溺れてしまって…」

「はっ?溺れて?敦くんが?」

「敦?いえ、猫がですけど」

「猫って…溺れるんですか?」

「溺れたんです、池に落ちたそうで」

「池?入鏡池?」

「はい」

「どうして…ですか?」

「敦が神社に遊びに連れて出かけて…それで」

「いつでしたっけ?」

「はっ?」

「猫が死んだの」

「3年前です」

「3年前…お爺さんが死んだのも」

「えぇ…祖父の葬式から、間もなくでしたけど、なにか?」

「いえ…ごちそうさまでした」

「あぁ、アナタから頂いたものですから…」

「失礼します」

 花田が何かに気付いた…ような…そうでもないような。

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