第97話 ウォッシュ

「見てろって…何かするつもりなんですか?」

「もうしてるじゃない…」

「澤田くんのことですか?」

「澤田少年のことですか…だろ」

 花田から視線を外しながら頭をガリガリと掻く相良。

「まったく、頭痒いわ、ホント」

「痛いんじゃないんですね、車出します」

「何処へ?」

「……探しにです」

「澤田少年?」

「桜井敦です」

 花田は車を急発進させた。

「オワッ…」

(だから交通課クビになるんだってば…)

 相良はシートに押し付けられたまま顔をしかめ、花田を見た。

 真っ直ぐに前を見ている花田

(まっ、わき見しないのはいいことだけどさ…何処に行くつもりで走ってんだろ?)

「あのさ…花田巡査」

「はい」

「何処に向かっているの?」

「神社です」

「なぜ?」

「現場です、現場百編です」

「はい?」

「現場にこそ真実があります、ドラマで観ました」

「あっそう…」

 相良は、花田に委ねることにした。

 ハンドルを握っているのが花田である以上、自分にはどうすることもできないからだ。

(だから…証拠隠滅のために放火したんだからさ…なにか残っているわけないじゃない…まったく…)

 再び頭をガリガリと掻く相良。

 キュッと車を停車してドアをバタンと開ける花田。

「行きましょう相良さん!!」

「はいはい…」

 ゆっくりと重い腰を上げる相良。

(どこで、誰が、彼女のヤル気スイッチ押したのさ、迷惑な…)


 沈下して現場の人はまばらに残るばかり

「ご苦労さまです」

 敬礼して警官に事情など聴いている花田。

(なんで地域安全課が事情聴取してるんだろ)

「相良さん!!」

「ん?」

「なに、放火の現場でタバコに火付けてるんです!!」

 花田の大声に現場がザワつく…。

「あの…放火なんですか?」

 警官が花田に聞き返している。

(余計な事をバカデカい声で…まったく…)

「あのー…えーと…」

 返答に困る花田を無視して、相良は池の方へ歩き出した。

 後ろで自分を呼ぶ花田の声が聴こえたような気がしたが…気のせいだろう。

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