第98話 1月2日(月)夜

 帰宅して夕ご飯を食べた。

 風呂に入って部屋に戻る。

 特に何も聞かれず、何も言われない。

 だけど解る、この部屋にアイツが来たことが解る。

 気付いただろうか?

 気付いたはずだ。

(そういうことさ相良刑事、黙って見ていなよ…)

 サボテンを見てニヤニヤと笑う敦。


 夕食を終えた崇は、風呂に入ると智子に出かけてくると言って外に出た。

 崇は歩いて神社へ向かっていく、時折、大きなため息を吐きながら寒空を見上げる。

 冷えた空気に星空はクリアに映え、チラつく粉雪が神秘的な夜を彩る。

(結局、桜護の血筋は、あの池から離れられないのか…)

 神社までの道のり、近づくにつれ足取りが重くなる。

 坂を上り、燃えた境内、まだ焦げ臭い匂いが周囲に漂う。


 父親との思い出が静かに溢れ出る様で、それは余韻のように心に広がる。

 子どもの頃に聞かされて、少し怖かったことを思い出した。

(そうだ、俺は怖かった、だけどアイツは…)

 自分の口から離したことは無かったのに、自分で系譜を掘り起こした息子。

 それどころか、躊躇なくソレに手を伸ばす。

(アイツは異端だ、俺のように臆病になることはなく、薦んで手を伸ばした、用意されていた力だとでも思っているのだろう…それが間違いだと教えてやることが、俺の役目、親の務めなのだろう)

「これは、触れてはいけない力なんだ…それを解れよ敦…」


 崇は池の前で大きく深呼吸して、凍り始めた池に入って行く。

 ゴボンッ…大きな波紋が池に広がり、崇の身体は、そんなに深くはないはずの池に吸い込まれる様に消えていった。


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