第113話 ムーン

「いい月夜…って感じじゃないな~」

 タバコに火を着けて煙を吐きだし、指先を紫煙を燻らす様に動かす相良。

「なんでタバコなんて吸うの?」

「不思議か?」

「不思議だね、身体にいいことなんて一つもない、他人に迷惑を撒き散らしているだけじゃないの」

「その通りさ」

「身勝手だね、僕とアナタと、どちらが社会の迷惑なんだと思うの?」

「さぁね、人間なんて皆、身勝手なものだろ?俺もオマエも…自分さえ良ければいいんじゃないのか」

「気が合うのかな?以外にも」

「タバコは犯罪じゃない…」

「ふん、僕の行動は犯罪じゃないでしょ」

「法律は完璧じゃない、そんな完全なルールは世界の何処にもない、でもな、完璧であろうと足掻いた人類の足跡だ…」

「なんの話をしているのか解りませんよ」

「オマエの足跡は、何を目指しているのか…解らんよ俺には」

 相良はタバコをプッと地面に吐き捨て足でギュッと踏み消した。

「アナタはそうやって自分の不都合を権力で揉み消してきたんじゃないですか?」「フフフッ、そうかもな…今までも、これからもか」

 相良はスッと懐から拳銃を取り出し銃口を桜井敦に向けた。

「正義の味方じゃないとは思ってましたよ相良警部補」

「その通りだ、俺は、自分を正義だなんて思っちゃいない」

「僕もです…気が合う様な気はしてたんですよ、だからアナタが嫌いなんです」

「気が合うね~、俺もオマエが大嫌いさ」

 銃口を向けたまま、2人が対峙する。

「待ってたんですか?僕を」

「いいや…まぁ、いずれ会うとしたらココだろうとは思ってはいたがね…葬式前に会えるとは思わなかった」

「偶然ですか…」

「いや…必然さ」

 カチリと撃鉄を起こす相良の目、それは虚空を見る様に無感情な視線。

 見返す敦の目、どこか楽しんでいるように笑っているのであった。

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