第114話 ハンマー

「で?どうするね…小賢しい少年、その小賢しさで切り抜けてみせてくれるんだろう?」


 相良と敦が池の前で対峙したのは20分ほど前、相良が池の前でタバコを吸っていたところに敦が現れた。

 タバコの火の灯り、いやそれ以前に視認できないような天候でもない、相良に気付かれない様に引き返すことも出来たと思うが、敦はそうはしなかった。

 一瞬、足が止まったが敦がそのまま相良に近づいてきたのだ。

「以外だったね…自分から寄ってくるとは」

「そうですか?別に引き返す理由もないので…自分が特別だとでも思っているんですか?相良警部補」

「犯罪者は刑事を避けるのがセオリーなもんでね、キミもその口かと思ってたんだが」

「犯罪者の定義が法に偏っているのであれば、僕は犯罪者だと思いませんけど…」

「偏ってないさ、刑事なもんでねこだわっているんだ」

「いずれにせよ、僕は犯罪者じゃないってことですね、じゃあ近づいても不思議はないでしょ」

「そうなるね…後ろめたさすらなければね」

「ありませんよ、警察は市民の安全を守るのが仕事でしょ」

「違うな、警察は起きちまった犯罪を処理するのが仕事さ、守るなんて考えたことも無い、少なくても俺は無いね」

「処理ですか?」

「そう、処理さ」

 短くなったタバコを足で踏みつぶして、月を見上げる。

「アナタの言う処理は、法に触れるのではないですか?相良警部補」

「法ってなんだろうね~、正しくもなく、間違ってもいない」

「ソレそのものがヒトを護るために存在するから不完全なモノしか作れないんですよ、法から護るという概念を取り除けば、大分違った形になるのではないですか」

 クククッと相良は笑い、

「いい月夜…って感じじゃないな~」

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