第128話 忘却
当時の相良、周囲からは『いい気味だ』と聴こえる様に陰口を叩かれていた。
引きずり降ろす、その理由を探していた連中は、この件を2度と来ないチャンスと捉え過去の捜査方法も問題として、相良の首に鈴を付けたのだ。
動くたびにチリン…チリンと警告音を鳴らす鈴。
それは今も付いているし、なんなら今回の件で首輪に縄まで付けられたような格好となってしまった。
忘れたくても忘れられない…老害と評していた老刑事の最後の言葉、声すら掛ける者がいない相良に近づき彼はこう言った。
「人が人を裁くようなマネをしてはいけない、容疑者とて人、俺達は犯罪者を追っているわけじゃない、あくまで容疑者を追っているだけだ、俺達が犯人だと決めつけちゃいけない」
あの日以来、謝罪するタイミングすら失い、彼から遠ざかっていた相良、バツの悪いことを百も承知で、彼に花束を渡す役を命じられたのだ、もちろん上司の嫌がらせに他ならない。
そんな相良の花束を受け取り、肩をポンと叩いて、一言残し振り返らずに署を去って行った…足を引きずりながら。
一言も返せず、相良は深く頭を下げた。
相良の操作方法は、さほど当時と変わってない。
ただ変わったのは、逮捕を目的としなくなったことだけだろう。
点数稼ぎ、自己顕示欲、利己的な正義感、そんなものが薄くなっていった。
それは周囲からは熱意の消失と捉えられていたが、相良は熱意を失ったわけではない。
表だって見せなくなっただけ…むしろ表層的な悪意に反応せず、本質的な悪意に反応するようになった。
その相良が感じている悪意、桜井敦という少年に対して感じた悪意は、あまりに幼く利己的で…とても純粋だった。
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