第132話 零話

 そもそもアリスはなんで池で見つかったんだ?

 崇は解る。

 だがアリスはナイアガラの滝に落ちたのになぜ?

 相良は考えていた。

 違和感というか…崇の抜け殻、いや死体は池にあった。

 あたりまえだ、当たり前すぎて今まで見過ごしていた1ピース。

 とっくにハマってなければいけないピースを見落としていた。


()


 そもそも俺はアリスの捜査をしていたはずだった、いつの間にか桜井家に巻き込まれて、元々のパズルを放り出していた。

 桜井敦とアリスは別のパズルだったはず、いつの間にか1枚の絵になると決めつけていた…違う絵なんだ、ただ関連性のある連作とでも言うべき絵。


(完成させなければいけないのは…アリスだったんだ)


 桜井敦は必ず、また俺の前に現れる。

 アイツは逃げたんじゃない…そんなヤツじゃない。

 だったら追う必要は無い、向こうから現れるのだから、今やるべきことは…投げ出したパズルを完成させることだ。

 逃げたのは俺だった…アリスという絵が視えなくて逃げ出したんだ。

 だから桜井敦を捕り逃がしたんだ。


 立ち上がろうと太ももを両手で支えた、ズキッと傷口が痛む。

(そう急かすなよ…桜井敦…忘れやしないからさ~)


 ギリッと歯ぎしりした相良の目に少しだけ昔の光が宿っていた。

 鈍く光る、使い込まれた刀のような鈍色の凄み。

(昼行灯は返上しようか…桜井敦…)


 相良の中で寝かしつけたはずの鬼が、薄く目を開いた。

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