第76話 1月1日(日)電話

「兄さん、警察が来たわよ…」

「やはりな…何を聞かれた?」

「別に、大したことは、子供の頃の話と、桜井の家の話をしただけよ」

「それで帰って行ったか」

「えぇ…捜査って言ってたけど」

「捜査しようがないさ…あんな話」

「そうね…敦は?どうしてる」

「おとなしくしてる…今は」

「刑事を警戒している?」

「相当な、抑止力になっているよ、俺のところに来る刑事が」

「敦の同級生だそうね…」

「あぁ…」

「敦が?」

「おそらくな、いや間違いないだろう」

「その刑事は?」

「勘づいているな…もともとは、あの外人の件で来たらしいが…今は敦を怪しんでいる風に見える」

「怪しんでいても…証拠はないわ」

「あぁ…だからこそだ…敦の挙動を気にしてるのさ…」

「捕まえる気なのかしら」

「いや…そんなタイプじゃない…な、事実を真実として知りたがっている、そんな感じだ」

「なにそれ」

「いや感覚の話だよ」

「顔を見せには来ないのか?」

「今はね…電話で充分よ…敦も私には会いたくないでしょうし」

「そうか…敦は、お前に会いたいと思っている」

「なぜ?」

「俺が話さないから、お前に聞きたがっているだろうさ」

「桜井の家のことは話さない方がいいと思う…特に、あの子には…敦には」

「あぁ…アイツは、それを嫌悪しないだろうからな…むしろ逆だ」

「そうね…私達は口を閉ざしたけど…あの子は違うわね、きっと…」

「そうだ…敦は嗤うだろうな」

「義姉さんは?元気?」

「あぁ、相変わらず敦にベッタリだ」

「そう…気を付けてね兄さん」

「解っている…じゃあな」


 電話を切って久実は大きくため息を吐いた。

(刑事じゃないわよ…気を付けるのは敦に…なのよ兄さん)

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