第149話 Deep Scan

 深夜、私と相良さんは神社へ向かった。

「電子タバコにすればいいのに」

「あれはさ~タバコじゃないよ、それに嫌いなんだ、あの香りがさ」

 相変わらず、タバコに火を着けて煙を吐き出す。

 今じゃ煙害なんて呼ばれるタバコ、禁止できないのもお国の都合というやつだ。

 吸わない人が大半を占める現代において、『ヤニカス』は軽蔑の対象だが、相良という男には、よれたコートとタバコが似合うように思う。

 少し前を歩く猫背の男、少し痩せ形、白髪が目立つオールバック、額の深いシワ…この男と出会わなければ、私は何をしていたのだろうか。

 普通に結婚していたかもしれない、刑事になんてきっとなっていない。

 一生、拳銃なんて撃つことも無くボヤーッとした人生だったのだろう。

(アタシも…アタシにも今度は撃つ覚悟はある)

 その意思を確認するように、腰に収めたリボルバーに手を回す。

 冷たい感触、人を殺す道具だけが持つ独特の鈍い冷たさが指先に走る。


「オマエさん…覚悟は出来てんだよな?」

 坂道の途中、相良が立ち止まり、振り返らないまま聞いてきた。

「覚悟ですか…あります」

「なんの?」

「今度は撃てます」

「撃つ?」

「はい」

「その覚悟はいらないよ、見届ける覚悟だけしとけばいい」

「どういう意味です?」

 相良が振り返って、手を差しのべ、何かをよこせと言わんばかりに軽く振った。

 私は、拳銃を相良に渡した。

 相良はタバコを吐き出して足で踏み消した。

 受け取った拳銃から薬莢を取り出し、ポケットにしまい、カラの拳銃を返してきた。

「黙って見届けてくれりゃいい…」

 そう言って、神社へ歩き出した。


 言われるまで解ってなかった。

 私は、もう舞台から降りなければならないのだと…。


 最後の幕があがる…そこには、老刑事と少年のまま時を超えた男以外は誰もいらない。


 池のほとりに月明かりに照らされた桜井敦が立っていた。

 舞台の中央がソコなら、相良は袖からゆっくりと表れ、中央へ向かっていく。

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