第71話 序章

 その日、見た光は虹色の光沢を放つ緑色。

 光の中に吸い込まれる様に歩いて行った。

 恐ろしくも美しい光景だった。

 光がスッと消えると、池に女性が浮いていた。

 慌てて池に入り女性を引き上げたが息は無く穏やかな顔で眠るような表情のまま、すぐに息を引き取った。

 ほんの数分の出来事だったと思う。


 あの池は時折、魂を欲するという話を聞いたことがあったが、目の前で起こった出来事は、まさにソレであった。

 魂だけを吸い取り肉体は置いていく抜け殻のように。


 こんな光景を目の当たりにするとは…やはり桜護の血筋なのか。

 この場所を護る役割を担っていた先祖の血…あるいは虐げられた者の呪いかもしれない。


 池は桜護の魂を喰らい続けるのだろうか…。

 芝に横たわる母の顔は安らかに眠るように…。


 言い伝え通りなら母の遺骸は灰になることは無い。

 魂が次の場所へ辿り着くまでは。

 人は死んだらどうなるのだろう…肉体は灰になって終わるが魂の行きつく先は在るのだろうか?


 母の魂は、鏡に留まり、長きの間そこで役目を担うのだろう…。

 桜護が守るのは捨てられた老人ではない。

 鏡に捉えられた魂だ。

 時に猫や犬を贈る寂しくない様に…。

 魂の浄化が終われば、また誰かが役割を担う。

 それは、私か…私の子孫か…あるいは異国の護人かもしれない。


 記録だけしておこう。

 憶測は捨て、起きたことだけを先に残そう。


 この池、いや鏡はすでに役目を終えているのに…。

 人の歴史を促進させ、人の好奇心を惹き付け続ける魔鏡。

 コレ無くして人は外を知らず、コレ在るがゆえに呪われた。


 もう…外へ行くことは叶わないのに…。

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