第131話 先人

「犯人を勝手に想像するな」

 若いころの相良、頭の中で想像した犯人を追うような捜査を年配の刑事に窘められていた。

 その刑事は相良が事件を絵空事のように考えている、そんな風に視えたらしい。

 実際、相良はどこか事件に対して達観している部分があり、被害者にも加害者にも人間的な配慮に欠けているような言動があった。

 相良にとっては被害者も加害者も、パズルの1ピースであり、それに上下は無く、全ては等しく、そしてハメてしまえば無価値なものなのだ。

 ただ淡々とパズルを組み上げていく、相良は作業しているだけなのだ。

 情熱に欠けているということはないくせに、その捜査への姿勢が良い評価を得られない、ただ誰よりも確信に辿りつくは早い、そんな刑事だった。

 解決に急いでいるわけではない、その過程、効率にこだわっているだけ…。

 実際、犯人が誰であろうと、被害者が何人だろうと相良には端末的なデータに過ぎない。

 想像した通りの絵になっているか否か、それだけのために黙々と作業するのである。

「あの野郎…もう一回やんねぇかな~そのほうが調べるより早いのに…」

 どうしても確証が出ない捜査、老刑事と食事しているときにボソッと呟いたことがあった。

「バカ野郎!!」

 定食屋で怒鳴られたことを覚えている。


 タバコの煙を吐き出しながら、昔のことを思い出していた。

「捜査ね…現場、現場か…オヤジさん、アンタなら桜井敦を、どう視たのかね?」

 誰も居ない資料室でボソッと呟いた相良、タバコをギュッと灰皿でもみ消し、ノソッと立ち上がって背伸びした。

「先のことを想像するより、起点から見直す…だったかな?オヤジさん」

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