第79話 1月1日(日)昼

「敦、お昼、お雑煮でいい?」

「うん」

「おもちいくつ?」

「2個でいいよ母さん」


 なんで正月はモチばっかり食べなくちゃならないんだろう?

 そもそも正月ってなんだ。

 単に暦がリセットされるだけじゃないのか?

 自分の過去まで洗い流される気になっているんじゃないだろうか…だとしたら大きな間違いだ。

 過去は消えない。

 良いことも悪い事も、すべて引きずって生きていくのが人間だ。

 過去は糧として捉えるべきだ。


 白いモチが椀に浮く、少し焦げ目がついてカサブタのように見える。

 パキッと割れた表面は父親のかかとを連想させる。

(気持ち悪い…)

 雑煮に嫌悪感しか抱けなくなった。

 消せるものなら消してしまいたい。

 いや、消せるのだ。

 問題は、どうすれば?だ。

 父親は池について何かを知っていると考えるべきだ。

 自分からは池には近づかない。

 僕が誘えば疑うだろう。

 行かざるを得ない状況を作りださなければならない。

 どうすれば…あの男を消せるんだ。

 安全な策などない。


 ハイリスク…だけど刑事がハエのように飛び回っている以上、いつまでも野放しにもできない。

 あの男は、僕に興味が無い。

 僕がそうであるように。


 あの刑事は、あの男から何かを掴もうとしている、あるいは掴んでいる。

(猶予は無い)

 気付けば、部屋で温くなった雑煮を箸でグチャグチャに突いていた。


 あの刑事を使おう…危険だけど…。

 疑われる、今更…気にするものでもない。

 証拠など出やしないんだ。

(案外、深く考えることも無いのかもしれない)


 冷めた味の薄い雑煮を胃に流し込んでお盆に乗せて廊下に置いた。

 そういえば…トイレと風呂以外、部屋から出てない気がする。

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