第108話 1月4日(水)昼

 池を眺めていた。

 正確には池から僕が火を放った境内脇の小屋の跡を眺めていた。

 結果的に境内も燃えたわけだが、うっすらと雪を被っていてもココで火事があったのだということは見ればわかる。

 得てしてそんなものなのかもしれない。

 黒い部分というものは、いくら白いもので覆い隠そうとしても、完全には隠し切れないものなのかもしれない。

(桜井の歴史のように…か)


 花束を池に投げ込んで、帰ろうとしたときに巡回中のお巡りさんに出くわした。

「キミ、確か桜井さんとこの…息子さんだよね」

「……はい」

「やっぱりか、覚えてないかもしれないけど…」

「いえ、覚えてます、というか知ってます、いつも交番の前を通って学校に行くから」

「そう…お父さん、気の毒な事になったけど…」

「いえ、父には父の…なにか僕には解らないこともあったんだと思います」

「うん、そうだね、自転車、いつもみてもらってたんだ、あまり多くを話す人じゃなかったけど、真面目な人だなって思ってたよ」

「そうなんですか」

「あぁ、いい人だった…こんなことになるとは思わなかったけど…良い人間ほど、悩みも多かったのかもしれないね、あっゴメン…不謹慎だったね」

「いえ…そうなんだと思います、じゃあ僕これで」

「家まで送るよ」

「いえ、大丈夫です、僕はちゃんと家に帰りますから…」

「そう…うん、なにかあればいつでも交番に来なさい、でも…泣いたまま帰っちゃダメだ、涙を拭きなさい」

 お巡りさんはハンカチを差し出した。

(涙…僕は泣いているのか…いや、泣いていたのか…)

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