第34話 12月25日(日)夜分

「えぇ…家には来てませんし…敦は今日は家から出てませんけど?…はい…そうですか…心配ですね…あっ、なにかあったら電話しますから、はい、では、ごめんください」

 母親が電話を切って居間に戻ってきた。

 父親は特に何も聞いたりしない。

 顔の表情をまったく変えずにTVを観ている。

 誰からの電話か想像は容易い。

「敦、澤田くん、まだ家に帰ってないんだって、なにか知ってる?」

「ううん、知らない」

「そうよね…心配ね」

「そうだね」

「敦、あまり1人で出歩いちゃだめよ」

「うん、わかってるよ」

 僕は部屋へ戻るタイミングを計っていた。

 父親がソコに居るというだけで、変な空気感になる。

 自営業だから基本、家に居るワケだが、店でパンク修理でもしてれば問題ないが、仕事が無くヒマなときは居間でTVを黙って観ている。

 笑うでも無し、怒るでも無し、昔の映画や死んだ俳優の特番が好きなようだ。

(息がつまりそうだ…)

 知らない俳優の話など、どうでもいい。

 今、売れてる俳優ですら興味は無いんだ。

 無声映画は僕も好きだが、父親とは趣味が違うようだ。


「もう寝るよ」

「あぁ…」

 今日の会話もコレだけだった。

 いつもこんなものだ。

「敦…澤田くんのこと、ホントに何も知らないのか?」

 唐突に、父親が僕に聞いてきた。

「うん、今日は会ってないし、それに、そんなに仲がいいってわけでもないし」

「そうか…」

 僕は後ろ向きのまま父親に答え、そのまま部屋へ戻った。

 少し足早になっていたかもしれない。

(アイツ…どういう意味だ?)

 何を考えているか解らない…そういう所が好きになれない。

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