第33話 キープ

 相良の顔が凛々しくとは言い難いが引き締まる。

「ん~……偶然の範疇って言っていいのかな~…まだ」

「相良警部補…言い難いのですが…」

「うん、解ってるよ…決めつけで捜査はしたくはないんだけどね、まぁ捜査なんて初動はさ、大概決めつけなんだよ、でなきゃ思い込み」

「いえ、そういうことではなく…お貸しした千円…」

「……なるほど…言い難いよね」

「はい」

 相良からクシャとした千円を受け取って、ホクホクの花田。

 元は自分のお金ではあるが、取り返したという事実が嬉しい。

 あの相良から。

(記念に、この千円札は財布の中でお守り代わりに使わないでおこう)

「とか…思ってたりしてな~、あの顔は…」

 花田と逆に相良の表情は曇っていた。

「隠してたのは、このことだった?」

 なにか釈然としない。

「なにか繋がらないんだよな~」

 データベースにアクセスしても、アリス・シーカーに関する資料は消去されている。

 その時点で暗黙の了解…迷宮入りが確定しているわけで、別に本腰入れて捜査なんぞしなくても問題はないはずだ。

(俺は、なにをしているんだろう…こんな働き者だったっけ?)

「そんなわけないですよ」

「と…心で思っただけだと…声出てたかな?」

「出てました。一般的なサラリーマンは、相良警部補の倍は働きますよ」

「倍ねぇ~過労死しちゃうわけだ」

「過労死の前に肺がんじゃないですか?ここ数日、タバコ増えてますよ」

 花田が指さす灰皿はタバコの吸い殻で溢れていた。

(灰皿って…なんでコレばっかなんだろう)

 銀のUFOみたいな形をした灰皿を繁々と眺める相良。

「やっぱ、話聞いた方がいいんだろうな~」

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