第91話 エターナル

 相良は部屋を出て店にノソッと顔を出した。

「なにかあったかい?」

「いいえ、何も」

「だろうな」

「予想通りです」

「そうか・・・そうだろうな」

「えぇ…」

「持ち出したんだろう、アイツにとって、もう用は無いものを処分するために」

「一足違い…でしたかね」

 相良はタバコを取り出して火を付けた。

「何も残さないだろうなアイツは」

「えぇ、水槽に不思議の国のアリスが飾ってありました」

「アリス?」

「えぇ、おそらく敷き詰めた砂は…飼っていた猫じゃないですかね」

「……猫…砂に変わったのか」

「理由は解りません、時間なのか、成仏なのか、想像する余地すら無い現象ですがね…刑事は結果を見る仕事でして」

「向こうのことは解らんが…親父は剥がされた意識が次の形態になった結果だと言っていた」

「次の形態?意識の?」

「あぁ、俺には解らんが…」

「息子さんには解る?」

「のかもしれん、アイツは、自分から池に近づくのだから…俺や親父とは違う…今までの誰とも違う、触れてはいけないというおそれが無い」

「好奇心が猫を殺す…文字通り、好奇心で猫を殺した」

「自分も猫に成り得ると解っていない」

「なまじ賢いだけに…ですか」

 相良に背を向けて工具箱を整理しはじめた崇。

「コレを…」

 箱の中から崇が取り出して相良に渡したもの、5個のビー玉サイズの銀色球。

「なんです?」

「代々、受け継いできたものだ…鏡を破壊できる唯一の物なんだそうだ」

「破壊?壊せるんですか?」

「最初の巫女が持っていたそうだ、ほぼ完全な球形、反射率100%の人外の鏡を破壊できるものは、同じ人外のもの…そういうことなんだろ」

「私が持っていていいんですか?」

「俺には出来なかった、息子を止めることも…鏡に近づくことも…」

 相良は無言で受け取った。

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