第90話 ラビリンス

 軋む階段、2階へ上がり右側の部屋。

 鍵は掛かっていないようで崇がドアをガチャッと開けた。

「入れ…俺は店にいる」

「どうも」

 普通の小学生の部屋。

 ロボットのプラモデル…マンガ本…SF小説、特徴的な物など何もない。

 絵にかいたような普通の部屋。

(これは自信だ)

 相良は、気に入らないといった顔をして部屋を見回す。

(アイツは隠すなんて気はない…ごく普通に置いてある、たとえばクローゼットの中にポンッと…そんなヤツだ)


 探すなんて無意味なんだ。

 アイツの場合は…。

 この部屋は、殺風景な、この部屋は迷宮。

 思考の迷宮だ。

 おそらく…処分しに出かけたはず、一足違い…だけど、この部屋には痕跡を残している。

 100%完全に処分はしていないか…あるいは、ひとつ何かを置き残している。

(そういうヤツなんだよな)

 何を残した…敦、俺に何を渡したがっている?


 鬼ごっこを思い出していた。

 相良は鬼ごっこが好きだった。

 むやみに人を追いかけない、不用意に動き回らない。

 捕まえる順番を考え…鬼の行動を観察できる場所を離れない。


 そんな子供だった。

 かくれんぼ、助け鬼、相良は最後まで隠れきり、逃げ切り、完全に見つけ捕まえる。

 それが相良という少年の遊び方だった。

 刑事が天職とは思ってない。


 殺風景な部屋、窓際に置かれた小さな水槽にサボテンが植えられている。

 猫のフィギュア、少女のフィギュア、ジオラマのように配置されている。

「猫ね~」


 相良は部屋の隅で左から右へゆっくりと視線を動かす。

 水槽の前に立って、砂を手に取る。

(不思議の国のアリス…)



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