第89話 1月2日(月)正午

「奥さん、今日は、この間のお礼に伺ったんです」

 花田は智子と玄関で話していた。

「お礼と言われるほどのことは…」

「いえ、ケーキも御馳走になりましたし」

「あれは、あなたが…で?今日は?」

「ですからお礼に」

「あぁ、いえそれでしたら充分に」

 昨日に増して迷惑そうな顔の智子。

(とにかく引き伸ばさねば)

 花田は必死であった。

「ところで奥さん、最近どうですか?」

「はい?」

「最近、なにか変ったこととかー、でなければ困ったこととか?」

「困ってること?」

 今まさに困っている智子の顔がヒクッと歪んだ。

(アンタが今、ココにいることだよ!!)

 智子の顔を見るまでもなく花田は理解している。

(と、思われているだろうなー)

 桜井家の玄関で寒い冬の昼時、女の戦いが始まろうとしていた。

(相良さん…圧が凄いです、早くしてください)


「今日はうどんを持ってきました」

 コンビニで調達した煮るタイプのうどんを差し出す花田。

(まさか私に煮ろと?)

 ヒクッヒクッと目じりの横がヒクつく智子。

(相良さんー!! この人怖いですーーーー)



「真相は解らない…ということですかね」

「あぁ…伝えられていることが正しいなんてことはないだろ…桜井に限らないがな」

「そうですね、でも、それを掘り起こすのが刑事でしてね~、もっとも歴史なんてものに興味は無いんですが、それでも、掘らなきゃならないこともあるんです」

「……」

 無言のまま、コーヒーの缶を置いて崇は立ち上がった。

「あがれ、息子の部屋へ」

「すいませんね…令状は無いですよ」

「だろうな…」

 相良は革靴を脱いで、店から敦の部屋へ向かった。

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