第55話 BABEL

「池…落ちたのか…」

 ずぶ濡れのまま池のほとりに歩いてあがる。

「なんで池に落ちたんだ…夜…」

 辺りは暗く、空には月が出ている。

(熱いな…)

 熱帯夜、雑草に覆われた池の周りのソチラコチラから虫の鳴き声が聴こえる。

「夏!!」

 そう夏…雪も氷も無い、緑に覆われた神社。

(なんで…)

 フラフラと街へ向かった。

 知っている道…知らない街並み。

 奇妙な違和感、不安感。


 締め付けるように濡れた服が肌に食い込んで動きにくい。

 脱ごうにも脱げないくらいギチッと肌に張り付いている。

(息苦しい…)

 息が上がる…眩暈が襲う……また意識が遠のく……。


 目が覚めるとベッドに寝かされていた。

 見知らぬ白い天上…壁。

 起き上がると狭いベッドがギシッと軋む。

「ここは…」

 狭い部屋、誰も居ない…ドアから外へでると長い廊下。

(病院?)

 壁にもたれ掛る僕に看護婦が気づいて声を掛けてきた。

「大丈夫ですか?今、先生を呼びますからお部屋の方に…」

 僕は部屋へ戻されて、再びベッドへ寝かされた。

 しばらくすると医者が入ってくる。

 僕の目にライトを当てて話しかける。

「大丈夫ですか?道路で倒れていたんです、覚えてますか?」

「いや…解りません…ここは何処ですか?」

「K私立病院ですよ、運ばれてきたんですよ」

 看護婦に何やら話して、医者は部屋を出て行った。

 残された看護婦が

「少し眠ってください…何かあればこのボタン押してください」

 そう言うと僕はまた部屋に1人残された。


(何かがおかしい…何かが違う…)

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