第8話 12月20日(火)放課後

「桜井くん、放課後ちょっといいかしら?」

 5時間目、算数の授業の途中に担任の木村先生が後ろのドアから入ってきて僕を廊下に連れ出した。

「木村先生、なんですか?」

「ん、例の件で刑事さんが来てるんだけど…話をね聞かせてほしいって」

「何度も話しましたけど、また話さなきゃダメなんですか…」

「ん~東京の刑事さんだから、待ってるのよ、もう」

「……わかりました」

「じゃあ、放課後、先生も付いていくから、応接室にね」

「1人で行けます」

「でも、入りにくくない?応接室」

「何度も入りましたから大丈夫です…じゃあ、授業に戻っていいですか?」

「えぇ…じゃあお願いね」


 教室に戻ると、隣の席の澤田が、僕に小声で話しかけてきた。

「おい、敦、また誰か来たのかよ?」

「あぁ、東京の刑事だって言ってた」

「有名人は大変だね~」

 悪意に満ちた澤田の顔。

 僕が、あの事件以来、アチコチで噂になっているのが面白くないのだ。

 もともと僕は、クラスでも仲のいい友達がいるわけでもなく、孤立しがちだったのだが、あの事件以来は、面白がって話しかけてくる同級生が増えた。

 事件の話を聞きたいと言って、僕を神社に誘った倉部さんは、澤田が密かに好意をもっている女子だった。

 何があったわけでもないが、その話を知ってから澤田は、事あるごとに僕にチョッカイをだすようになったのだ。

(コイツも池で死んでくれればいいのに)

 僕は子供じみた嫉妬にウンザリしていた。

 授業が終わって応接室に行こうとすると澤田が

「今日もヒーローインタビューご苦労さまです」

 と僕に笑いながら敬礼した。

 何人かがつられて笑いだす。

 木村先生が付いて行こうか?と聞いてきたのは、こういうことがあるからだ。

(本当に面倒くさい)

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