第68話 ROOM

 何日か病室で僕は過ごした。

 この部屋には時計が無く、鏡も無い…僕は、何処にいるのだろう…。

 内側からドアは開かない、少なくても僕には開けられない。

 カードが必要なようだ。

(隔離されている)

 僕は閉じ込められている。

 両親も誰も来ない。

 何日も此処にいるのに、誰も来ない。

(おかしい…)

 窓はあるけど開くことは無い、擦りガラスがはめ込まれているだけの殺風景な白い部屋。


「特殊棟8号室の患者ですが…先生」

「澤田さんだっけ」

「えぇ…記憶が小学生の頃で止まっているようでして」

「そのようだね…心的要因だろうけど、20年間の空白期間は埋められるものじゃないだろう、社会復帰は難しいね」

「ご両親には、どう説明したら?」

「警察から説明してもらうさ…20年間行方不明になっていた息子が帰ってきたんだ、事件だろ、これは」

「面会はしばらく様子を見るということで…」

「うん、御両親もそうなんだが…なにより本人が理解し難いだろうからね、少しづつ空白を埋めていくしかないだろうね…まずは、自分が33歳だと自覚してもらわないと…」

「そうですね」

「いきなり現実を突きつければ、さらなる混乱をきたす可能性が高い、慎重に様子をみて、落ち着くのを待とう」


 今日も外が暗くなる。

 擦りガラスの向こうがオレンジから黒に変わっていく。

 身動きすら取れないこの服は、なんのため?

 僕はなぜ、ベッドに固定されているのだろう?

 どこか怪我でもしているのだろうか…痛みも感じないけど。

 看護婦さんが食事を運んでくる頃だ。

 食べさせてくれるけど…なんで自分で出来ないんだろう?

 何が起きているのだろう?

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