第115話 1月5日(木)夕刻3

「撃たないんですか?」

「撃った方がいいんだとは解っているんだけどな」

「自己保身が働いてしまう…」

「違うな、いやソレもあるか、もちろんな…」

 相良が苦笑いを浮かべながら銃口を少し敦に近づける。

「脅しじゃなさそうですね」

「迷っているだけだ、弾いちまったほうがいいとは思いながらも、それが正しいのかと迷いが拭えない」

「僕には解らないんでしょうね」

「だろうな、不思議と相容れないと思いつつ、オマエのことが理解できるんだよ」

「僕もです」

 自分が笑っているのが不思議でならない。

 相良は迷っている、それは解る、でも、なにかの拍子に引き鉄を弾きかねない状況、この距離で外しはしないだろう、そのために相良は少しづつ距離を詰めてきているのだ。

 心のどこかで、ここでは終わらないという確信がある。

 根拠のない自信。

 相良の目は真っ直ぐに自分を見ている。

 それは善悪を見極めんとする目のように思えた。

 相良は自身の善悪の呵責で、今、自分を裁こうとしている。

 いや、結果はすでに出ている、相良にとって自分は悪だ、迷っているのは罪ではない。罪人に与える罰の方だ。

 それは『死』に値するか?

 そこを計っているのだ。


 そして自分が罰を与えること、その資格があるのかを迷っている。


 PiPiPiPi…

 相良のスマホが鳴る。

 視線と銃口を向けたまま、左手でスマホを胸ポケットから取り出す相良。

「キミか…そう…あぁ今、目の前にいる…」


 途切れ途切れの会話、自分の事、大叔父の事だとすぐに気づく。

「俺が裁く必要はなさそうだ…桜井敦」

「僕を探している?警察が」

「そういうことだ…葬式が増えるようだな」

「あぁ、そういうことですか」


 相良が銃口を向けたまま近づいてくる。

 スマホの代わりに手錠を取り出した相良

「おとなしく捕まるか?それとも抵抗してみせるか?」

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