第86話 スルー

「ナニカの話」

「神社には、歴史絵巻があった」

「絵巻ですか」

「祖父から聞いた話でしかないが…」

「その話は妹さん、久実さんから伺いました」

「ん、聞いてるよ…俺が知る話は妹が知らない話だ」

「長男しか受け継がれない…とか?」

「そんな大層な話じゃない」

 ストーブで温めていた缶コーヒーを一口飲んで、崇は話し出した。


 桜井が桜護を名乗った頃の話は聞いただろう…。

 桜護を捨てた話だ。

 桜とは墓場、それも罪人の墓場を差す隠語。

 護りとは番人。

 看守というわけではない。

 公にできない罪を犯した者、その罪を護る番人。

 その番人が罪を犯したから、護りの任を外された。

 桜井の先祖は、鬼を名乗り姥捨ての地を管理していた。

 老人といえど、当時の年齢で40代の者もいる。

 里とは隔離されても、自治区のような村があった。

 そこで子を成す者もいる、存在してはいけない子供、それが桜護として育てられる。

「つまり桜井の先祖は、姥捨て地で産まれた子供」

「そうだ」

 桜護として、人が暮らす里と姥捨ての地を隔てる壁として、どちらにも属さない、人を捨てた鬼として生涯を終える桜護。

 だが、この地には情けがあった。

「魔鏡…」

「あぁ…アレは魂と身体を分離させる」

「そこが発端でしてね」

「昔からだ…口減らしとして連れて来られた人を過酷な労働にあてるわけだが…この里は…」

「安楽死も選べた」

「安楽死か…まぁそうなのかもな」

「情けってのは?」

「遺体を持ち帰れる…腐らない遺体を」

「情けなのかね~」

「さぁな、その遺体に問題があった…」

「問題?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る