第125話 正攻法

「やっぱりおかしいと思うんですよ」

「花田刑事、せめて的には入れてくれんかね…」

 花田の射撃の資質は皆無と言ってよかった。

「狙った場所に当たらないなんて…そんなことあるんですね」

「大概、狙った場所には当たらんものだが…全弾、的の外ってのも珍しいんだよ花田くん」

「そうですよね、やっぱり銃に問題があると思うんですよアタシ」

「そう、貸してごらん」

 射撃訓練で教官を任された小太りの巡査部長が、花田のリボルバーを受け取り弾を込め直し構える。

 ターン!!

 渇いた音が鳴り、的の中心からややズレた場所に穴が空く。

「的には当たると思うんだが…」

「何処狙ったんです?」

「もちろん、センターだ」

「あぁ…若干ズレてますね、気持ち左手を引いた方がいいかもしれませんよ」

「大きなお世話だ、キミにだけはアドバイスを受けたくないね」


 刑事課に配属されて3週間が経とうとしていた。

 仕事に慣れたと言うほど仕事はしていない。

 職場に馴染んだとも言い難い。


 そもそも銃を撃ちたいわけではない、ただ相良という刑事と行動して、なにか自分は変わった気がする。

 相良は尊敬できる人間ではない、ただ、相良の行動の根幹には法とは違う正義を感じた、それは解り難く、見え難く、でもボヤッと光っているように思えた。

 自分とは違う色なのだろう、だけど…いやだから、改めて自分が警察官を志した、その理由を、もう一度考えて出した結果が、刑事課への転属だった。

 それが取引だとは理解している。

 でも、そうしなければ、刑事課になど行けやしない。

 花田は、相良というフィルターの向こうに何かを見たような気がした、それを確認するために自分で1歩踏み出したのだ。


 と、自分でナレーションを付けてグッと拳を握る花田。

「花田…片づけとけよ」

「はい…」

 現実は厳しいのだ。

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