第40話 12月26日(月)

(あの刑事が来ている)

 2階の自室で聞き耳を立てていた。

 無意識に息を押し殺す。

 嫌な緊張感が走る。

 僕に会いに来たのか?

 あの刑事、何に気付いた?

(澤田のこと…僕と結びつけたか…澤田には会ったのか…気になる)

 正直に言えば、あの刑事と話はしたいという気持ちもあるんだ。

 何を、どこまで感づいている?

 呼びに来ないな…、僕に用事は無いのか?

 何しに来たんだ?

 僕は部屋のドアをそっと開けて、下の様子を伺う。

(父と話している?)

 正直、僕を尋ねてくるより緊張している。

 なぜ…やはり、あの刑事は僕のことより神社、いや池のことを調べている。

 だから父の所へ来たんだ。

 やはり、父は…祖父の日記を知っている。

 そのことに刑事は気づいている。


 だから…。

(何も話すなよ…)


 長い…とても長い時間に感じた。

 実際は1時間ほど、聞き耳を立てているだけで1日運動をしたかのように疲れた。

 何を話したのか、よく聞き取れなかった。

 何を話したのか…とても気になる。

 夕食の時にでも聞いてみたい…どうやって、さりげなく?そんなことできるのか?


 夕食は、味気のないすき焼きだった。

 正直、好きではない。

 母の料理には味が無い。

 すき焼きはとくに素材の味しか感じない。

 それを溶いたタマゴに絡めても美味くはない。


「今日、誰か来ていたの?」

 母が父に尋ねた。

「いや…べつに」

「あらそう、タバコ吸いがらがあったから」

「あぁ…客だ…パンク修理、待っている間に吸ったんだろ」

「そう」

 父がチラッと僕を見た。

 視線を逸らして、味気のない肉を食べた…。

 普段に増して味を感じなかった。

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