第124話 天秤

「政府が俺のホラ話しをまともに受け取るとはね…思いもしなかったよ」

 少し不思議そうな顔をして公安の男が訪ねる。

「あなたは、こうなることを予測していたのではないですか?」

「はい?」

「与太話をしなくても、それらしく逃れることができたはずでは?」

 相良がフッと笑う。

「俺が、こういう話をすれば、公安が飛びつく、そう考えたとでも」

「違うのですか?現に我々は…いえ、私は動かされたわけですし」

「見当違いですな~与太話をしたのは…」

「したのは、本当の話ですよね、相良警部補」

「さあね…覚えてないよ」

「協力する気はないということでしょうか?」

 肩をすぼめて相良は答えた。

「協力できることがないということです」

「同じことです…解りました、今日はコレで失礼します、このまま報告させていただきます、では…」

「はいはい…御足労様でした、お茶も出しませんで失礼しました」


 公安の男は出て行った。

「まだ若そうだけど…公安か…面倒なことになったな」

 デスクに座ってタバコに火を着ける。

 誰もいない部屋、パソコンが1台あるだけの窓すらない小部屋で座り心地の悪い椅子をギシギシと揺らしながらグレーの天上を見て考える。

(ここに放り込んだのもアイツラだと思うんだけどな~たぶん)

 開かない口はこじ開けるような連中だったら簡単なんだけど、開かない口を縫い付けるような奴らなんだよな。


 相良は煙を燻らせながら、花田のことを考えていた。

(なんか巻き込まれてないといいんだけど…巻き込まれに行っちゃうようなヤツなんだよな~彼女は)


 その心配は的中していたのである。

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