第24話 12月21日(水)境内2

「後ろから来たじゃない?見えないね池」

「…池から境内の後ろに来たんです」

「あぁ…どうやって?」

「歩いて」

「足跡残さずに?歩いて?」

 相良が立ったまま見下ろす様に横目で敦を見ている。

 その目は鋭く、獲物を追いつめるような動物の視線、敦はゴクリと唾を飲みこむ。

「帰ります」

「桜井くん…」

 敦は花田の呼び止めを振り切るように足早に立ち去った。

「相良警部補!! あんな子供に…」

「ん?いけなかった?」

「当たり前です。捜査協力者じゃないですか」

「協力者だっんだ…へぇ…発見者だと思ってた」

「協力もしてくれてます」

「刑事の鉄則…第一発見者から疑えってね…」

「あの子に殺しができますか?」

「殺し…じゃないんじゃないかな」

「まったく…タバコ…灰!!」

「あぁ…火事にならないように気を付けるよ…なんせ、重要な証拠かもしれないし」

「コレ」

 花田巡査が相良にポケット灰皿を差し出した。

「くれるの?」

「署の備品です!! 貸出しです!!」

「せっかくだけど…いらない」


「コレ、頼まれていた資料です」

「ありがと」

 受け取ると読みもしないで後部座席にポイッと頬り投げた。

 ギロッと睨む花田。

「民宿で読むんだよ…じっくりとさ…それと…外では読みたくないんで、喫煙可の部屋取ってくれない?」



 その夜、敦は部屋で十得ナイフの刃を出したり閉まったりを繰り返していた。

(あの刑事…あの刑事…)


 机の上に広げた絵巻物。

 池に光る鏡を沈めている様子が描かれている。

「あの池に近づいてはいけない…澤田…運の良いヤツ」

 壁に投げつけたナイフがゴンッと跳ね返って床に落ちた。



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