第52話 ハート

「相良警部補、桜井智子です、桜井敦の母親が作らせてます」

「母親ねぇ~、敦が頼んだか…崇が頼んだか…ここを間違えると厄介なことになるな~」

「どっちが持っているか?ですか?」

「いや、持ってるのは敦だ。それは間違いないんだけど…頼んだのは、どちら側からでも頼めるんだな…これが…」

「母親も何か知っているのでしょうか?」

「それはないな~、必死で探しているみたいだしね…」

「探す?あぁ澤田くんですね」

「あぁ、知ってりゃ探さないよ…息子を護るほうに力を注ぐだろうよ」

「知ってるんですか?」

「知ってるよ…ビラ配りしてるから貰っちゃった」

「それだけですか?」

「ん?息子のクラスメートなんです、お願いしますって言ってた」

「なにか変ですか?」

「息子を庇うならさ…クラスメートなんですとか言わないかな~と思っただけ」

「根拠薄くないですか?外すには…」

「外しちゃいないさ、あの母親なら訳なぞなくても敦のために動くね…だから」

「だから?」

「何も知らない共犯者ってのもいるんだぜ…」

「そういうことですか…親子」

「そういうこと、今は母親は考えない、合鍵を持っている敦…色々、他にも持っていそうだな…」

「日記…」

「だけじゃない…神社の云われや、もっとヤバイものも」

「ヤバイもの?」

「そっ、腐らない遺体…その元凶」

「えっ?」

「あるいは…そのワケを…かな」

「相良警部補…」

「家宅捜査令状…」

「はっ?」

「取れないよな~」


 電話を切って、民宿の窓を開け、タバコに火を付ける。

 深く吸い込んで、フハァーっと煙を外に吐き出す。

 紫煙に、白い息が混じって風に流され消える。

(崇か…敦か…間違えれば全て闇の中…)

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