第3話 インビジブル

「在り得ないでしょう…」

「いや…解るように説明してもらえませんか?」

「不可思議としか言えないのですが…ここだけの話にしてください」

「なにかあるんですか?」

「解剖できないんです…物理的に」

 鑑識官が俺に椅子に座るように促した。

 触れることはできるし、解剖も進んではいる、だけど何をどうしても死亡直後のまま時間が止まったかのような死体なのだそうだ。

 つまり鑑識結果は死亡直後と結論付けるしかないと言う。

 そんなバカな話があるのだろうか。


 もし仮説を立てるならば、あの女性は、ナイアガラの水を持ち込んで、その水で溺死してから池に倒れ込んだとなるのだ。

 なんのために?

「だから説明できないんですよ…アリス・シーカーは現地で捜索願いが出されていたのですから」

「検視の死後7時間というのは?」

「簡単ですよ…死んで発見までの時間が経過しただけです…発見後7時間経過していたので、7時間と記載するしかなかった…正確には死亡直後と記載しなければならないでしょうね」

「遺体は?」

「今朝、科捜研の指示で移されましたよ…どこかは聞いてませんが」


 アリス・シーカーの資料が紛失したのは、その4時間後だった。


「時間軸が無いって言ってたな…」

 監察医の言葉。

「あの死体は、時間軸上に存在しないんです…視えるし、触れるけど、そこにはない…そういう類のモノとしかいいようがない…バカげた話ですがね」


 俺は、ポケットから煙草を取り出し喫煙場所を探した。

 火を付けて一吸いした。

(馬鹿げた時代になったものだ…)

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