第136話 ボール
「待ってたんですか相良さん」
「待ってたさ、ずっとね、それしかできないしさ、アイツはそれを解ってるのさ、なにせ20年焦れてた俺の顔を見に来ないわけがないじゃないか、だから確信しているのさ、必ず会えるって」
「身を隠そうとはしないんですね、桜井敦は」
「しないな…そういうことはしない」
短くなったタバコを深く吸い、大きく煙を吐き出してポケット灰皿に入れた。
「少しはマナーを覚えたんですね、相良さん」
「ん、20年経ってみると、世の中は変わったと思うよ」
「桜井敦は、どう思ってるんでしょうね」
「さあね、浦島太郎気分なのかね~…想像できんがね」
陽も落ちた夜中、2人の刑事が思い出話をしている。
できれば思い出したくない話もある。
老刑事は待つことしかできず、地方で地味に職務を遂行していた女刑事は見ている事しかできなかった20年間、長かった。
そして、あの時の少年は、ひと時で20年の歳月を超えた。
個々が過ごした20年を清算する時と場所、それはこの神社以外に在りえない。
「ところで、アリスのこと調べてたんですよね?相良さん」
「あぁ…それでナイアガラ観光してきたんだよ」
「どうだったんですか?」
「ん、今更っていう話しかないんだけどさ…今日は遅いな、明日話すよ」
「聞きたいですね、桜井敦も含めて、アリスという女性が発端ですからね」
「あぁ、少なくても俺達が巻き込まれたのはアリスの件からだからね、俺も、もう少し早くというか…もともとの調査をサボらなければと思わないでもないよ」
「サボってばっかでしたからね、あのときは」
花田がクスッと笑う。
「花田刑事…小じわ目立つ歳になったんだな」
「大きなお世話です」
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