第137話 OutRun

 翌日の昼過ぎ、昨夜、花田と別れてビジネスホテルに泊まった相良。

 20年前の民宿が懐かしく思える。

 あんなに気に入らなかったのに…不思議なものだ。

 変わったといえば、当然変わっている。

 あのときの爺さんも、すでに他界しているだろう、時代は少しずつ進み、そして環境は、さらにゆっくりと確実に変化している。

(どんな気分だ?桜井敦…)

 部屋でタバコを吸うことができない、そんな時代になった。

 ロビーの角に隔離された喫煙スペースに浴衣のままで壁にもたれ掛りタバコに火を着ける。

(色々と肩身が狭くなったのは…コイツタバコのせいだけじゃないよな~)

 人差し指と中指の根元でフィルターを押さえ、口元を隠す様に吸う相良。

 何年経っても吸い方は変わらない。

 口元を隠すのは、自分の性格の表れだと自覚している。

 本音を隠す、そんな自分の性格。

(アイツが吸うとしたら、どんな吸い方するのかね…)

 相良は30を過ぎているはずの桜井敦を想像していた。

 犯人を想像するな、怒られそうだが相良には、やはりこういう捜査が向いているような気がする。

(30前半、中身は13歳か…性格は挑戦的で自己顕示欲強め…)

 おおよそ犯罪者には向いていないというか、まぁ逃亡者には向いていない人物。

(ゆえの行動なんだろうな~、逃げてない…ステージを変えただけだ)

 大人しく匿われているようなヤツじゃない。


 相良は考えていた。

 いざとなったら…俺は今度こそ撃てるのか?


 子どもだから撃てなかった?

 違う。

 ソレで止めたくなかっただけだ。

 ソレは俺の敗北だから。


 アイツはソレを見抜いていた。

 相良は無意識にフィルターをギリッと噛みしめていた。


(思い出すよ…あのときの屈辱をさ)

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