第212話 叔母と甥
【レグナ隊】と【リイド隊】が帰還していないことをカティアが知ったのは、ゼクード達が出撃して数分後の事だった。
真っ先にレィナとリーネの顔がよぎり、カティアはローエ・フランベールを連れてグリータの館へと急いだ。
案の定レィナとリーネ……特にリーネが泣き崩れていた。
グリータも懸命に励まし、ローエも彼女を抱き締めて涙を受け止めた。
レィナも気丈に涙を堪えていたが、ついにリーネに貰い泣きしてしまう。
騎士がどんな仕事か分かっていても、肉親を失う怖さが無くなるわけじゃない。
自分の息子なら尚更だ。
同じ母親として、ひどく痛いくらい共感してしまう。
カティアは泣き崩れてしまったレィナを抱き締めて、しばらく胸を貸した。
※
数分後にグリータたちの部屋から出た。
階段を降りた先はガランとしたホールでフランベールが立って待っていた。
「レィナさんたちは?」
「なんとか落ちつきましたわ」
「よかった……」
フランベールがホッと胸を撫で下ろした。
そんな彼女の脇を通りすぎ、カティアは玄関へと歩いた。
「カティア? どこ行きますの?」
「城壁の門に行く。もしかしたら入れ違いで帰還してくるかもしれないだろう」
「カティア。それは……」
「わかっている。限りなく少ない可能性だ。だが……まぁ……ここでジッと祈ってるよりは、な」
※
カティアはグリータの館から外に出た。
レィナの悲しむ顔を見ているのが辛かった、というのもある。
騎士の子供を持つ親なら多少は覚悟しておかないといけないことだが……いざ自分がその覚悟する立場になると、泣き崩れる母親たちの気持ちが分かってくるのだ。
いつかもしカーティスやグロリアやレミーベールが死んだら、自分も泣き崩れるだろう。
騎士だからそんな事もある、と。割り切れる自信がない。
結局はどこか他人事のように捉えていたんだなと、改めて自分の浅はかさを感じた。
二人目の赤ちゃんだって、騎士になって死ぬかもしれない。
その時も自分は泣くだろう。
子供を失って泣かない親など、いるはずがない。
……あの父でさえ、そうだったのだから。
「──なんでついてきたんだ?」
背後の気配にカティアは言い放つ。
「あなたが隠れて特訓しないか見張りですわ」
背後の気配はローエ。
石畳をツカツカ歩き、カティアにピッタリついて来ていた。
カティアはやれやれと溜め息を吐く。
「こんな時にするわけないだろ」
「こんな時じゃなかったらするって意味じゃありませんの! まったく! お腹の子に響くって言ってますでしょう?」
「わかってる」
「歩くくらいなら良いですけれどね? 特訓とかはダメですからね?」
「うるさいな……」
口うるさい姉のようなローエをあしらいながら、カティアは城壁の門近くまで歩いた。
ローエと二人で散歩してるような形になったが、何やら門の方が騒がしい。
「大変だ! 報告急げ!」
「はっ!」
命令された騎士が慌ててカティアの横を走って行った。
気になったカティアは先の騎士に駆け寄る。
「おい! どうしたんだ!」
「いえ! それが! 帰還して来たんですよ!【レグナ隊】と【リイド隊】が!」
「なんだと!?」
「みんな無事ですの!?」
驚愕してローエと一緒に声を上げてしまった。
騎士は頷いて門を指す。
「無事です! あちらに!」
カティアとローエは顔を見合わせて頷き門へ向かった。
するとそこには門の日陰で休む騎士たちの姿があった。
全員で8人。部隊2つ分の人数だ。
みんな多少の怪我などはしてるが、重傷者はいないようだ。
だがみんなかなり疲れてグッタリしている。
どれがレグナとリイドなのか?
カティアは目を凝らして探したが……
「いやぁ~まいったぜ。すげぇ大量のドラゴンゾンビに襲われてさ」
「そうそう~。身を隠してたら期限内に帰れなかったよ~」
みんながグッタリしている中、まだ体力が余っている騎士が二人いた。カティアはその二人に目をやる。
「そうだったのか……実は数時間前にお前らの救援に【カーティス隊】を出しちまってな……」
「マジで!?」
っと門番の言葉に驚くのは黒い髪をした男の騎士。青い鎧を装備している。武器は双剣でレィナと同じだ。
さらにレィナと自分とそっくりなライトブルーの瞳。
……まさか、この軽そうな男がレグナか?
「あ~入れ違いかぁ~」
っとのんびりした口調の騎士はローエと同じエメラルドグリーンの瞳をしていた。
リーネとローエと同じ金髪で、同じ緑の鎧を着ている。
武器はグリータと同じ片手剣だ。
ローエの男版みたいな男だ。
彼がリイドか?
「やばいな。オレとリイドで迎えに行くか?」
「そうだね~。あそこドラゴンゾンビだらけで危ないし。レグナと二人で迎えに行こう」
やはりそうだ。
レグナとリイドと呼んでいる。
彼らが甥っ子か。
無事で良かった。
「カーティスの野郎がいるならあれくらいの数は余裕だろうけどな…………ハッ!?」
レグナがカティアを発見して目を限界まで開いた!
視線が重なったかと思うと、次の瞬間にはカティアの目前に瞬間移動していた!
「っ!?」
「そこの薔薇の様に美しいお嬢さん」
は、速い!
一瞬で間合いを詰められた!
「自分は【南の領地】のSS級騎士レグナ・ロードリーと申します」
スッと慣れた手つきでレグナはカティアの手を掴む。
「これから緊急の任務があるのですが、仲間たちの疲労が濃く、休ませてやりたいのです。そこでどうでしょう? 助けて頂けませんか? ここで出会ったのも何かの縁です。なぁに簡単な御迎え任務ですから──」
──まさか甥っ子にナンパされるとはな。
内心で溜め息を吐き、カティアは目付きを鋭くしてレグナの手を払った。
「バカ者! くだらんことやってないでレィナに顔を見せてこい! 心配しているぞ!」
「え!?」
「そうですわ! あなたもですわよリイド! 早くリーネのところに行きなさい!」
「え、リー……へっ!?」
いきなり怒鳴られ戸惑うレグナとリイド。
そんな二人に痺れを切らしたカティアがバスターランサーを展開し、切っ先を空へ向けた。
「さっさと行けぇえええ!」
ドカンと爆音が炸裂!!
「「は、はぃいいいいい!」」
爆音で威嚇されたレグナとリイドは逃げるようにグリータの館へ走って行った。
「まったく……」っと一呼吸してバスターランサーを納めた。
「やれやれ無事でしたわね。良かったですわ本当に」
本当に良かった。
これでレィナとリーネも回復するだろう。
「ああ。しかし今度はゼクード達か……」
「一難去ってまた一難ってやつですわね」
「私たちが行くか」
「ダメですわよ」
※
レグナはリイドと共に謎の赤い女騎士に威嚇爆破され、街中を走っていた。
母が心配していると言ってたけど、あの人たちはなんだ?
母さんの知り合いなのだろうか?
まぁなんにせよ、帰還が遅れて心配かけてしまったのは事実だ。
うちの母さんたちは凄い心配性だからな。
特に
こっちもどうしようもなかったんだが、仕方ないか。
いや、うん、まぁしかしあれだ。
さっきの赤い女騎士と緑の女騎士は誰だろう?
あんな美人いたっけ?
街の美人は全て頭に入れてあるはずなのだが……
オレがあんな美人を二人も見逃すはずはない。
また今度会ったらデートにでも誘ってみよう。
「おいリイド見たか!? あんな美人が二人も居たぜ! なんで今まで気づかなかったんだ?」
「だよね~綺麗だったよね~。僕……あの金髪の人が凄い好みかも」
「オレァはやっぱ赤髪のポニーテールのお姉さんだな。気が強そうでメチャクチャ好みだわ。ああいう女性って、実は尽くしてくれるんだよなぁ」
「胸も凄かったね~」
「それな! しかもあれだ。あの赤いお姉さん……なんか他人じゃないような不思議な感覚がビリッと来たぜ! こりゃ運命の相手かもしれねぇ!」
「あ、それなら僕も感じたよ~。あの金髪のお姉さん。なんか他人じゃないような不思議な感覚があったよ」
「おお……こりゃついにオレたちにも春が来たかもしれねぇな!」
「だね〜!」
レグナもリイドも17歳という思春期ゆえに美人には目がない。
今日見かけた可愛い女子というありふれた話題に花を咲かせながら走った。
相手が自分たちの
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