第101話 ロリータの春が来た!
ゼクードに報告を押し付けられたグリータは、やっとこさ晩飯にありつける自由を得た。
「あ~つっかれた」と薄暗い鉱山内を歩く。
ったくゼクードのやつ。
子供が生まれてから仕事サボり気味じゃねーか。
気持ちはわからねーでもないけど、今度キツく言っとくか?
そう思ってると腹が鳴った。
腹へったな。
「飯、どうしよっかな……」
一人で食堂に行こうか?
いや、リーネとレィナでも誘ってみるか?
意外にも誘ったら来てくれること多いし。
一人で食べる晩飯より、可愛い女の子と一緒に食べた方が美味いし楽しい。
まだ食べてなきゃいいけどなぁ。
そんな淡い期待を胸に、グリータはリーネの部屋に向かった。
たしかレィナはリーネのところへ行くと言っていたから、ここに来ればまとめて誘えるはずだが。
そのリーネの部屋の前まで来たグリータはノックをしようとする。
しかし。
「──グリータってさぁ、どうしてああも鈍感なのかなぁ……」
ちょうどレィナの声が聞こえてきた。
なんだ……またオレの鈍感話かよ。
扉をノックしようとしていた手が止まり、食事に誘う気持ちが一気に萎えていった。
面倒と思ったからだ。
飯を食べながら横で鈍感鈍感と連呼されてはたまったもんじゃない。
一人で飯にするかな……。
踵を返して去ろうとする。
「でもレィナさん。あの義兄さんいわくグリータさんは──」
思わず足を止めた。
「──自分に自信がないからだって言ってましたよ」
ズキリと胸が痛むのを感じた。
図星と認めているせいだろうか。
ゼクードの奴め、人が気にしてることを。
お前みたいな天才じゃねーんだよオレは。
実力だって頑張ってみたけど、結局ゼクードに追い付けなかったし。
オレは【持たざるモノ】ってヤツなんだよ……
「本当にそうかな……あんなに気づいてもらえないと逆に思っちゃうのよね……」
気づいてもらえない?
「なにをです?」
「アタシ……女として魅力ないのかなって……」
は?
「いや、レィナさんに限ってそんなことないと思いますけど」
リーネの言葉には同感だった。
レィナは実は、かなりモテている。
顔も良いし頑張り屋で、男騎士たちからは嫁にしたいと言われているほどだ。
リーネもそうである。
姉とは対照的におしとやかで優しいと評判で、癒しを求める野郎どもには絶賛の嵐だったりする。
こいつら人のことを鈍感と言うくせして、自分たちが一番の鈍感だと気づいちゃいない。
まったく御笑いである。
レィナとリーネが何人もの男たちに告白されているのをオレは知っている。
その全てをふっているのだから分からない。
ゼクードの真似だろうか?
「胸もぜんぜん大きくなってくれなかったしさぁ……カティア姉さまの半分もないよこれ」
「それ……ワタシにも刺さるんでやめてください」
「あ、ごめん……」
胸の大きさを気にしてるのか。
なんか、そういうとこは可愛いよなほんと。
「リーネだから言うけどさ、あたしやっぱり……グリータのこと好き」
────……え。
「義兄さんと比べたら、そりゃあいろいろ頼りないしカッコ悪いけど──」
──……オレ?
「一緒にいて楽しいんですよね?」
「うん……そうみたい」
……嘘だろ?
心臓がいきなりバクついてきた。
顔が熱を持って、赤くなっていると自覚できるくらい熱い。
ぇ、本当に!?
「わかります。その気持ち」
「やっぱりリーネも好きなんだ。グリータのこと」
「はい」
リーネまで……
夢の中なのか?
ここ……
痛っ!
夢じゃない……
うそだろ……マジかよ……
心臓の脈動が激しく、グリータは過呼吸になりかけた。
今や男騎士たちのアイドルとも言える美少女二人が、自分を好きだと言っている。
信じられない……どうなって……
「今でも忘れません。グリータさんがレィナさんを見捨てなかったこと」
あの時?
「あの時のグリータさん……本当にカッコ良かったんです」
「あの時か……そうだね。あいつのこと、本当に好きになったのはあの時だったかもしれない」
なんの話だいったい?
「避難民に喚いたのはドン引きだったけどね」
避難民……喚く……。
もしかして、二年前のあれか?
勝てもしないくせにA級ドラゴンに突っ込んで行ったレィナのときの。
「ふふ、わたしもです。勝てないって分かってるのに、レィナさんを見捨てなかったんですよ」
いやそれはリーネがオレを脅迫するからだよ!
「あんなの、本当に勇気がないと出来ることじゃないと思うんです。グリータさんは本当に勇気のある人だと思いました」
あれは勇気じゃなくて無謀だよ。
自虐しながらもグリータは、リーネの言葉を喜んでいる心を感じた。
こんな風に言ってもらえるなら、死ぬ気で行った甲斐があったというもの。
「リーネがお願いしたから行ったのかもよ?」
「いいえ。ワタシは頼んでませんよ」
「え?」
「レィナさんに加勢するから武器を貸してってグリータさんに言っただけです。そしたらグリータさんが代わりに行ってくれたんです」
そうそれ。
あんなの騎士の身で一般人に言われたら脅迫以外の何物でもないって。
「初耳よそれ。そうだったの? アタシてっきり……」
「ふふ、グリータさん、自棄になってたところもありましたけど、ワタシの代わりに戦ってくれたんです。そしてレィナさんを救ってくれました」
結果的に助かったのは国王さまのおかげだけどな。
本当に運が良かった。
「普段頼りないけど、ここぞって時に頼りになるのがグリータのカッコいいところよね」
「はい。お互い惹かれたところは同じですね」
やめてくれ。
本気なのか?
信じていいのかこれ。
グリータは扉の前でしゃがみ込み、両手で顔を覆った。
自分に自信がないから、他人の好意に自覚が持てない。
周りには自分よりも優れたカッコいい男たちがたくさんいる。
その中で、あえて自分を選んでくるのが信じられない。
だけどこの二人の今の会話は、オレが聞いていることを知らない嘘偽りのない会話だ。
こんなにもまっさらで純粋な言葉を信じないのは、男としてどうなのだろうか?
自信があるとかないとか、そんなレベルの話じゃなくなってる。
オレは……どうするべきなんだ?
こんなことならゼクードに聞いておけば良かった。
こんな時の対処法を。
「そうね……ところでリーネはもう決心できた? ハーレムのこと」
ハーレム?
「あ、もう大丈夫ですよ。お姉様を見ていたらとても幸せそうですし、楽しそうです。あれを見せつけられたらハーレムも悪くないなって思うようになりました」
は?
「じゃあアタシと一緒にグリータにアタックしちゃう?」
え!?
「良いですね! もうこっちから攻めちゃいましょうか!」
ちょ……っ!
ガチャッと不意打ちの如く扉が開いた。
しゃがんでいたグリータは反射的に立ち上がって、出てきたレィナとリーネと目が合った。
「あ……」
「え?」
三人の顔が赤くなるまで、そう時間は掛からなかった。
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