第102話 両手に花のロリータ

 それは、どれほどの沈黙だったのだろうか?


 おそらく数秒なのだろうが、体感的にはめちゃくちゃ長く感じた。


 時を果たしてグリータ・レィナ・リーネの三人が揃って顔面を真っ赤にする。

 

 聞いていたのがバレたグリータと、聞かれていたのを知った美少女二人。


 互いに発する言葉が持てず、しかしグリータは咄嗟の閃きで手を上げた。


「いま来たとこだから!」


「うそつけバカ!」とレィナ。


「ぅ、嘘じゃねぇよホントだし!」

 

「じゃあなんでそんな顔を赤くしてるんですか!」とリーネ。

 

「ぃ、いや……風邪じゃね?」


「いい加減にしろ!」


 怒鳴って睨んでくるレィナ。

 そしてリーネも。

 

 これ……オレが悪いのか?


 そんな疑問を抱きつつも顔を真っ赤にした二人の剣幕に押され、グリータはついに観念した。


「ごめん……全部聞いてた」


「どこから!」


 レィナに聞かれ、グリータは一瞬悩みながら。


「えっと、オレがどうしてああも鈍感なのかなって辺りから……」


「ほぼ全部じゃないのよ!」


 そ、そうなの?


「ごめん。わざとじゃないんだマジで」


「当たり前よ! わざとだったらもう……その、もう……ゆ、許さないんだから!」


「いや、ごめん。ホントに……」


 ここはひたすら謝ろう。

 そうするしかないと思った。

 オレもそうだが、レィナたちも冷静さを欠いてる。

 いったんお互いに頭を冷やすことが必要だ。


「あの……グリータさん!」


 リーネがグリータの前にまで出てくる。


「な、なに?」


「そこまで聞いてたんなら、もうワタシとレィナさんの気持ちは伝わりましたよね?」


「そりゃあ……もちろん」


「なら、グリータさんの気持ちを聞かせてください。ワタシとレィナさんはグリータさんのこと好きです。グリータさんは、どうなんですか?」


 ドクンと心臓が高鳴る。


 オレの気持ち?

 そんなの、決まってる。


「お前らこそ本当にオレなんかでいい──」


「その『オレなんか』をやめて!」


 怒鳴ってきたのはレィナだった。


「アタシとリーネに男を見る目がないみたいじゃない。失礼よそんなの」


「……」


 いや男を見る目は無いだろ実際、という言葉をグリータはなんとか飲み込んだ。


 ゼクードとかいう天才の隣にいたら、自分という凡才が限りなくゴミに見える。

 自分に自信を持てと言う方が土台無理な話なのだ。


 だけどレィナやリーネにはそんな話、今は関係ないみたいで……ここはもう、素直に男らしく答えようと思った。


「オレも、その……す……す……す……」


 あれ?

 口が、回らない?

 なんで?


「す、すす、す……しゅ、しゅ!」


「え、なに?」


 レィナが耳を向けてくる。

 オレはどうやら、告白にビビっているみたいだ。

 なんか、身体の震えが止まらん。

 こんなところまでヘタレなんて、自分が情けなくなってくる。


「グリータさん!」


 たじたじのグリータを見かねたリーネが声を上げた。


「ワタシはグリータさんのこと好きです! ほらレィナさんも!」


「え、アタシ!?」


「ワタシはグリータさんのこと好きです! ほらレィナさん!」


「あ、えと、ア、アタシも! アタシもグリータのこと好きよ!」


 なにこれ!?

 なんだこの流れ!?


「好きです!」

「好きよ!」


「オレも好きだ!」


 なんか言えた!


「言えました!」


 リーネが歓喜の声を上げた。

 それがきっかけで三人で「いえーい!」とハイタッチ。

 みんなで大爆笑し抱き合う。


 なんだこれ。


「あーもーリーネぶち壊し」とレィナが大笑いしながら言った。


「ごめんなさい」とリーネが笑いすぎて涙を流してる。


 雰囲気をぶち壊し、ノリと勢いで乗り切った感が凄い。

 でも、リーネのおかげだが告白も出来た。

 よかった。


 安堵していると、グリータの腹の音が空気も読まずに鳴った。

 そういえば晩飯まだだったなと、今更ながら思い出した。


 でもやっと彼女ができた高揚感。

 二人も一気に彼女が出来た戸惑い。

 それらの狭間で揺れ動いていたグリータには、この空腹こそ救いだった。


「よ、よーし! 腹へったし、三人で晩飯食いに行こーぜ!」


「はーい」とリーネがグリータの左腕にその細腕を巻き付けて密着してきた。


 レィナも負けずにグリータの右腕を抱き締め、その身体を密着させてくる。


 ──両手に花だこれ。


「浮気したら許さないからね?」


 上目遣いでこちら睨みレィナが言った。

 それがあまりにも、見たともないくらい可愛くて、グリータは顔を赤くしてしまった。


 こんなレィナ、見たことない。

 本当に可愛い。


「し、しねぇよ浮気なんて……」


 できないの間違いである。


「信じてます」


 リーネが微笑みながら言ってくれた。

 本当に信じてくれているその笑みも、本当に可愛かった。


 こんなに可愛い彼女を二人も手に入れて、オレはもうすぐ死ぬのだろうか?


 いつだったか、ゼクードも似たようなことを言ってた気がする。

 あの時は果てしなくムカついたが、今なら気持ちが分かる。


 幸せすぎて怖い。

 もうすぐ死ぬかもしれない。


 ──今なら分かるぜゼクード。

 ホントに幸せすぎて怖いなこれ。

 

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