第33話 ゼクードの本気
尻尾を切断され転倒したS級ドラゴンは震えながらもなんとかその巨体を起こした。
やつはゼクードを睨み、次の瞬間には白銀のブレスを放ってきた!
音速にも等しい白銀の奔流は、まっすぐゼクードに向かって飛んで行く。
危ないゼクードくん!
とフランベールが声を掛ける暇さえない速度。
そのブレスに対し、ゼクードは片手を前に突き出して唱えた。
「【ブラックホール】!」
彼の片手から黒い渦が発生し、飛来するブレスを飲み込み始めた。
あれは【闇魔法】!
ドラゴンのブレスを飲み込んで無力化する魔法だ!
まさかゲートを一撃で破壊する白銀のブレスさえも無力化できるとは。
……でもあれを使うということは、ゼクードくんは短期決戦でいくつもりだろうか?
【ブラックホール】は【闇魔法】の上位魔法だ。
それ相応の体力を消耗する。
彼ほどの体力の持ち主なら長くは持つだろうが、それでもかなり持っていかれる。
心配だが、ゼクードくんが何も考えずに魔法を使うとは思えない。
次で仕留められる確信があるのだろう。
信じよう。
彼を。
フランベールは内心でそう決意し、ゼクードを見る。
ゼクードはS級ドラゴンのブレスを見事に無力化し、ニヤリと不敵に笑った。
「もらったぜ。お前の火力!」
そんなゼクードにS級ドラゴンはまた一歩下がった。
心なしか怯え出している気さえする。
必殺のブレスを防がれ、あげく笑っている彼に畏怖したのかもしれない。
当のゼクードは片手をロングブレードに添える。
「【カオス・エンチャント】!」
唱えて刀身を撫でた。
ロングブレードは光を纏い始め、白銀に輝き始める。
ついに出た。
ゼクードくんが短期決戦を挑む時に使う【付加魔法】。
【闇属性】限定のこの【付加魔法】こそ【黒騎士】の真髄。
【ブラックホール】で吸収したブレスを魔力に転換し、武器に付加することで切れ味を上げる。
ブレスの威力が高ければ高いほど切れ味も上がるのだ。
ゲートを破壊するほどの威力を秘めた白銀のブレス。
その攻撃力が今、ゼクードくんの【竜斬り】に上乗せされた。
今のゼクードくんに断てないドラゴンはいない!
二つの上位魔法を使ったことでゼクードの体力はいまかなり削られたはず。
彼自身はケロッとしているが。
「ふっ!」
刹那、ゼクードが消えた。
次の瞬間にはS級ドラゴンの片腕・両足の三肢が吹き飛んだ。
S級ドラゴンの目がこれでもかと見開かれる。
攻撃は止まない。
背中の氷山に何十もの切れ目が走り、間もなく破砕した。
1秒と待たずS級ドラゴンの首が吹き飛び、宙を舞った頭部がゼクードを見据えたが、すでに頭部そのものが真っ二つにされていた。
四肢を失った巨体は両断された首と頭部と共に、地に落ちた。
そこで血の海を作り、S級ドラゴンはあっけなく黒騎士の前で亡骸と化した。
あまりにも一瞬で、あまりにも凄絶で、この戦いを見守っていたフランベール・ローエ・カティア・他の仲間たちはみな呆然と立ち尽くす。
カチンとロングブレードを背中の鞘に納めたゼクードが、何故か複雑そうな顔をしていた。
「こんなもんなのかS級って……」
耳を疑う彼の呟きだったが、S級ドラゴンを圧倒していた彼ならば言ってもいい言葉な気がした。
フランベールはゼクードの気持ちを何となく察した。
S級ドラゴンは英雄フォレッドが相討ちになるほどの脅威だったはず。
それがどうしたことか。
ゼクードの手に掛かればこの程度。
そのS級ドラゴンに殺される寸前だった身としては複雑な心境だが、それでもゼクードの気持ちも分かる気がした。
「ゼクードくん!」
S級ドラゴンの亡骸を見つめたまま動かないゼクードくんをフランベールは呼んだ。
「え、あ……」
ゼクードくんがようやくこちらの視線に気づいて、片手を上げた。
「エ、S級ドラゴン討ち取ったり! ……なんてね」
冗談で言ったつもりらしいそのゼクードの言葉は、勝利の確信を待ち望んでいた仲間たちの感情を起爆させた。
「うおおおお! やったああああ!」
「S級ドラゴンに勝ったぞ!」
「勝った! 俺たちは勝ったんだ!」
「いやっほおおおおおおー!」
仲間たちの歓声が【エルガンディ王国】に盛大に響いた。
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