第224話 クリティカル!

「リイド! 無事だったのね!」


「グロリア。それこっちのセリフ~」


 言いながら崩れた城壁を降りてきたリイド。

 彼に続いてレグナとローグも出てきた。


「お前ら!」

「無事だったか」


「レグナ! ローグ! あれ? 叔母さんは?」


「ゼクードさんとこ行っちまった。結局心配になったらしい」


 肩を竦めるレグナにグロリアは頷く。


「ならお父さんのことは叔母さんに任せておけば大丈夫ね」


「ああ。んでオレたちは指示を預かってる。みんなで合流してこの包囲網を突破しろだと」


「十分な戦力だわ。SS級騎士が6人もいれば、一点突破ぐらい楽勝よ」


 レミーベールの言葉に「そうね」と同意しつつ、グロリアはオフィーリアを見た。


「オフィーリア。アンタもしまた変になりそうだったらすぐ言いなさいよ?」


「はい。すぐに」


「よし! じゃあ行くわよみんな!」


「「「「「おお!」」」」」


 グロリアが先行し、みなが続く。

 それぞれが武器を展開し、大軍の一角に突撃した!



 一発一発が大爆発を起こす【ダークマター】。

 その弾幕をくぐり抜け、俺は【ブレイブエルガンディ】を振りかざす。


 血のドラゴンの左肩と左翼を切断!

 やはり近接攻撃は通る!

 

「きゃあああああああああ!」


 まるで女性のような悲鳴を上げ、切断された激痛に悶え苦しんでいる。

 女性思いとしては心苦しい悲鳴だが、相手はもはやドラゴンの化け物。

 ドラゴン狩りのプロとしては容赦する相手ではない!


「終わらせてやる!【真・竜(ドラゴン)斬り】!」


 加速して一気に間合いを詰める。

 しかし!


「や、やめて!」


「なに!?」


 血のドラゴンが人間の姿に戻った!

 あのバスタブから出てきた血塗れの女だ。

 肩の傷が回復している。

 

「斬らないで!」


「──くっ!」


 俺は慌てて振りかざすのを中断すると、その女はニヤリと笑った。


「!」


 気づいたときにはもう遅く、女の蹴りが俺の股間を直撃する。

 

「──っっっ!!」


 本日2度目の股間キック!

 目が飛び出しそうになる激痛が走った!

 声にならない悲鳴を上げ、おもわず怯んだ。


 その隙を逃さず敵は【ダークマター】を至近距離でぶっぱなし、俺は股間の痛みと全身が焼けるような大爆発の痛みに襲われた。爆風に吹き飛ばされ、地面を転がる。


 股間の直撃と【ダークマター】の直撃は深刻なダメージを身体に乗せ、すぐには立てなかった。

 立とうとしたのも束の間、すぐに追撃がきた。

 血塗れの女が蹴りを空へ放ったと思うと漆黒の三日月が発生して俺に飛んできた。


【ダークセイバー】だ。


 避けられず身体に直撃し、オリハルコンの鎧が弾け飛ぶ。

 インナーが露出し、わずかに肉に届いていたらしく胸から血が流れ始めた。

 

 危ねぇ……鎧がなかったら、今ごろ真っ二つだった。

 ドラゴンが使う【ダークマター】と【ダークセイバー】の2連撃はオリハルコンすら破壊されるのか。


 早く立たねば、また追撃される……


 しかし急所の痛みが想像以上に響いて立てない。

 脳に音速で痛みが届き、灼熱の痛みがしばらく続くと頭痛が起きて、目眩(めまい)が起きた。


 まるで脳に酸素が送られてないような……凄まじい吐き気すら感じるようになってきた。

 オフィーリアの時よりもしっかりと直撃してしまった。

 そのせいか動けない。


 腹を抱えて横になるしか、できない。

 体温が上がって汗が出てくる。そして涙も。

 

 一瞬の油断が命取りになった。

 まさか女の姿で命乞いをされるとは思わなかった。

 一瞬でも人間の正気に戻ったのかと、疑ってしまった。


 人間になったりドラゴンになったり……こんな敵と戦うのは初めてだ。

 騙し討ちをされるとは。くそ!


 敵が近づいてくる。

 足音が確実に迫ってきている。

 逃げろと脳では叫ぶも、身体は動かない。


 血塗れの女が手をまっすぐにこちらへ突き出してきた。

 また【ダークマター】を撃つつもりらしい。

 鎧が壊れた状態であんなものをくらえば、今度こそもたない!


 まずい……殺される!


 家族の顔を脳裏に浮かべ、歯を食い縛ったそのとき!


 血塗れの女の首が飛んだ!


「なっ!?」


 ドシャッと生首が石畳みの地面に落ちて血をドロドロと切断部から流した。

 何が起こったのか?


「お義兄様!」


 それは義妹レィナの声。

 見れば双剣を納めてこちらに駆け寄ってきた。


「お義兄様! 大丈夫ですか!」


「ぁあ……助かったよレィナちゃん。今のはホントにヤバかった……」


「お義兄様がこんなにやられるなんて……」


 言いながらレィナは肩を貸してくれて俺を立たせてくれた。

 レィナの優しい女の香りが鼻をくすぐり、血の臭いでうんざりしていた気分を癒してくれる。


「ちょっと騙し討ちをくらってしまってね。一気に逆転されちゃったんだ。本当に助かったよ……ありがとうレィナちゃん」


「いえ。無事で良かったです。心配で来て正解でした」


 まさかレィナちゃんに助けられる日が来るとは。

 人生って分かんないもんだな本当に。


 いやぁ~それにしてもレィナちゃん良い匂いだわ本当に。

 血生臭さで鼻がおかしくなってたから最高だわ本当に。

 もっと吸っとこう。すーはースーハー


 そんなアホな事をやっていると、首の無くなった血塗れの女が痙攣を起こした。


「な!?」

「まだ生きてるのか!?」


 地面に転がっていた生首は血となった溶けて……残った身体はドラゴンへと変貌した。

 しかも顔は復活している!

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