第223話 合流!

 オルブレイブを囲むほどの大群。

 それを見たレィナは戦慄した。

 身の毛が立つほどの悪寒を覚え……いや、思い出させられた。


 国を包囲された恐怖。

 死がすぐ隣にあったあの時。

 もう思い出したくもないあの記憶が鮮明に蘇ってきた。


「おいおいおいおい! なんて数だよ!」


「こんな数さすがに無理だよぉ~!」


「か、数でゴリ押しとか卑怯だぞ!」


 レグナ・リイド・ローグがそれぞれ喚いた。

 当のレィナは震える自身をなんとか抑え、すぐに指示を飛ばした。


「みんな! この場を離れるわよ! 急いで!」


「母さん!? どうする気だよ!」


「グロリアとレミーを探すわ! 二人と合流して、可能ならオフィーリアも連れて逃げる!」


 一方的に言い放ってレィナはオルブレイブへ走り出した。

 レグナたちも彼女に続く。


「ちょっと待てよ母さん! あのゼクードって人は!? 探さないのか!?」


「あの人なら大丈夫! とにかく私たちはレミーたちと合流してドラゴンゾンビの包囲網を一点突破するわ! いいわね!」


「「「了解!」」」



「止まんなさいよこのバカ!」


 オフィーリアの足を引っ張りながらグロリアは叫んだ。

 さっき遠吠えが聞こえてからオフィーリアの様子が一変した。

 グロリアとレミーベールを無視してオルブレイブの中へと駆け込んだのだ。


 爆音が響く方角へと向かっている様で、おそらく父ゼクードが親玉を見つけて交戦している場所だと思われる。

 ならば行かせるわけにはいかないと追いかけ、今に至るのだが……


 グロリアは左、レミーベールは右。

 二人はオフィーリアの足を掴んで、引きずられて前進されている。

 走るのは止められたが歩きでズルズルと進まれている。


 フル装備の騎士を二人も引きずって前進するとは凄まじい怪力だ。


 正直、二人掛かりで劣勢だったから無視されている今の状況は救いになっていた。

 殴られまくった顔や、全身のあちこちが痛い。


 これ以上の戦闘はキツイけど……なんとかして止めないと父ゼクードの元に着いてしまう。

 そうなると最悪だ。


 父の足を引っ張りたくないが、どうすれば……


「オフィーリアお願い! 止まって! 目を覚ましてよ!」


 しかしグロリアの声は届かず、オフィーリアは黙々と爆音の鳴る方へ進み続ける。

 

 どうしよう……また戦うにしても、手を離したら真っ直ぐにお父さんの方へ行っちゃう。

 無視されるから戦いにすらならない。


「レミー……どうしよう?」


「……こうして足に張り付いてた方が時間を稼げるわ。下手なことはしない方がいいかも」


「やっぱそうよね……」


 地面をズルズル引きずられている情けない格好だが、これが一番オフィーリアの進行を遅くできている皮肉。

 まともに殴り合ってもオフィーリアの方が強いから勝てないし……


「はぁ……が居てくれれば」


 ピクッ


 オフィーリアが一瞬止まった。


「!?」


 しかしまたすぐに前進する。


「……ねぇレミー、今こいつ」


「うん。一瞬止まった。なんで?」


 まさか……


「カーティス?」


 ピクッ


 また一瞬だけ止まった。

 やはりカーティスという名前に反応しているみたいだ。

 これはもしかして! 


「ああ! カーティスが見てるわよオフィーリア!」


「ええ!? どこ!? どこですか! ──……あれ?」


「オフィーリアあなた!」


 正気に戻ったらしいオフィーリアにレミーベールが驚く。

 グロリアも驚いたが、なぜかオフィーリアは前進を続けている。


「ちょ、ちょっと! アンタ止まんなさいよ!」


「無理です! なんか勝手に身体が動くんですよ!」


「どういう事なの!?」


「気張んなさいよ! 意識取り戻せたなら身体も取り返せるでしょ!」


「無理言わないでくださいよ! なんかずっと頭の中で声がするんです!」


「「声?」」


「助けて助けてって、わたしを呼んでるんです。気持ち悪い……うぅ」


「オフィーリア!」


「ま、また……意識が……ぁ……ぁ……」


 やばいわ!

 また意識が飲まれていってるみたい!

 なんとかしないと!


「しっかりしなさいオフィーリア! さもないとカーティスに任務で足を引っ張ったって報告するわよ!」


「わぁああああああああああああ! それだけはやめてください! それだけはやめてくださいぃいいいい!」


 あ、凄い。

 レミーの脅しでまた意識を乗っ取り返した。

 しかも身体も前進をやめている!


「あ! 身体が動きます!」


「やったわね!」

「さすが!」


 グロリアとレミーベールが立ち上がり、オフィーリアを褒めた。

 本当にカーティスに対する思いは本物だ。


「……あれ? なんか、身体が凄く軽いような……」


 オフィーリアは自分の手をグーにしたりパーにしたりを繰り返し、怪訝な顔でそう言った。


 身体が軽い? そういえば正気じゃない時のオフィーリアはやたら怪力だった気がする。

 スピードも上がっていたし……その状態がまだ解除されてないということだろうか?

 だとしたらまだオフィーリアは完全には助かってない?


「またすぐ意識を持ってかれそうな気がします……このままでは」


「ならここを離れるしかないわ! アンタここに来てからおかしくなったんだから」


「そ、そうですね。ここに来てからずっと気持ち悪いです……」


「気持ち悪い?」


「グロリア! オフィーリア! こっちよ!」


 先に走り出していたレミーベールが叫ぶ。

 それに気づいて、彼女を追いグロリアとオフィーリアは走った。

 オルブレイブの街中を駆けていると、遠くから凄まじい爆音が立て続けに起こっているのが聞こえた。


 かなり遠くだが戦塵が立っている。

 巨大なドラゴンの影さえ見えないが、あそこではきっとお父さん──ゼクードが戦っているに違いない。


 ……お父さん、頑張って!

 こっちは大丈夫だから!


 グロリアは静かに胸の奥でそう祈った。

 父の強さは嫌というほど見せつけられてきたから、絶対に大丈夫という安心感はある。


 だけど……また帰って来ないんじゃないか? という一抹の不安もある。

 やっと帰って来て、またすぐ居なくならないだろうか?


 それだけは……本当に勘弁してほしい。


「えっ!? あれって!」

「えええええええ!? なんですかこれ!?」


 崩れた城壁を乗り越えた先でレミーベールとオフィーリアが驚愕していた。


「なに? どしたの?」


 何事かとグロリアは彼女たちの肩から向かいの光景を見た。


「え!?」


 グロリアも驚愕した。

 遠くに見えるのはドラゴンゾンビの大軍!

 赤い眼光がオルブレイブを囲んでいた。


 やつらはまっすぐにこちらへ向かって猛進している。

 その数はもやは数え切れない。

 1000は優に越えてそうだ。


「じょ、冗談でしょ? なによこれ?」


 あまりに絶望的な光景にグロリアは少し後ずさってしまった。

 オフィーリア戦でかなり体力を消耗した。

 そんな状態でこんな馬鹿みたいな数を相手にできるわけがない。


 オフィーリアだってまたいつ正気を失うか分からないのに。

 カーティスと叫べば正気を取り戻すが、それもいつまで持つか分からない。


 こんな消耗した不安定な戦力でどう突破すればいいのか。


 悩んだグロリアだが、レミーベールがすぐに動いた。


「三人じゃ無理だわ。叔母さんの部隊と合流するわよ!」


「え? 叔母さん? レィナさんの部隊が来てるんですか?」っとオフィーリア。


「あ! そうだった! まだ味方いるじゃん!」


 忘れていた別部隊のことを思い出し、グロリアは胸に希望を覚えた。

 王国ナンバー2の実力者レィナや、レグナやリイドたち精鋭陣がいれば、この包囲網を突破できるはず!

 しかし場所が分からない。


 確かオルブレイブの外で戦っていたはずだが。


「あ! いたいた! こんなところに居たよ!」


 突然背後から聞こえた声に振り向くと、そこには従弟のリイドが崩れた城壁の上に立っていた。 

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