第222話 悪夢の再来
なんだこの遠吠え……まさか、仲間を呼んだのか?
こいつの仲間は、やっぱりあのドラゴンゾンビか?
オフィーリアちゃんも含まれるのか?
だとしたらマズイな。
焦りを覚えた瞬間、血のドラゴンの爪が虚空を裂いた。
俺との間合いがあるにも関わらず、そいつは腕を大振りしたのだ。
なんだ?
──身構えて集中して正解だった。
奴の大振りは漆黒の刃を生み出し、巨大な三日月となって俺に飛来した。
なんとか避けたが、巨大な三日月は廃墟や瓦礫などをバター同然のように切り裂いていく。
凄まじい切れ味だ。
当たったら痛いじゃすまない。
即死だ。
それに今の……飛ぶ斬撃か?
俺の使う剣技に似ていた気がする。
パワーは桁違いだが。
……人間みたいなことしやがって。
いや、元は人間か。
どうしてドラゴンに変異したかは分からないが、コイツは危険だ。ここで討伐させてもらう!
「【ダークセイバー】!」
目には目を!
ロングブレードを逆手に持って闇を纏わせた。
低い姿勢から掬い上げるように長剣を薙ぎ払う。
一閃、二閃、三閃と漆黒の三日月を血のドラゴンに向けて撃ち放った。
ヤツは避けようとしなかった。
そのままそこに立って、漆黒の刃を待つ。
避けないのか!?
いや、避けられないのか?
──違った。
ヤツに向かった【ダークセイバー】は、直撃寸前に黒い渦に飲まれた!
「な!? いまのって!」
黒い渦は血のドラゴンの目前で発生していた。
あの黒い渦はまるで、俺の闇魔法【ブラックホール】だ。
バカな……こいつ、魔法が使えるのか!?
じゃあさっきの黒い三日月も、俺と同じ【ダークセイバー】なのか!?
こんなことが……っ!
いや、元が人間なら……有り得る!
あいつは元は闇魔法使いの女だったのかも!
それにディザスタードラゴンの件もある。
ドラゴンが魔法を使うのは、なんら不思議なことではない。
得心したのも束の間。
ヤツの目前に発生している黒い渦から俺の【ダークセイバー】が返ってきた!
「嘘だろ!?」
俺の斬撃を含んだ闇の三日月がそのまま返ってきたのだ!
しかも的確にこちらを狙ってくる。
一閃目は飛んで横へ。
二閃目は剣で弾き。
三閃目はスライディングで前進しながら避けた。
スライディングから立ち上がり、即座に反撃!
「魔法がダメなら!」
俺はロングブレードを構えた。
レミーベールの構えを真似る。
レミー!
お前の技、借りるぞ!
「
薙ぎ払った長剣からジグザグな軌道をえがく斬撃が発射された。
レミーベールに教わったわけではないが、一度見た。
姿勢や構え……【竜(ドラゴン)斬り】による派生のおかげで真似はしやすい。
大剣ではなく長剣だから、威力はレミーに劣るかもしれないが、それでもいけるはずだ!
いけっ!
予測不可能な軌道の斬撃は……しかしいきなり発生した黒い渦に飲まれて消えた。
「なにっ!?」
俺は声に出して驚愕した。
今のは魔法じゃない!
物理的な斬撃だぞ!
なんで【ブラックホール】に飲まれるんだ!?
理解できないまま、斬撃は返ってきた!
予測できない不規則な軌道をえがき、銀の雷は俺の肩をかすめた。
肩当てがパックリと裂け、肩の肉まで斬撃が届き鮮血が散った。
「ぐっ!」
くらっちまった!
俺としたことが!
【竜斬り・銀雷】……くらう側に立つと初めて分かる。
こんなにも避けにくい技とは。
斬撃の速度は一瞬で、下手に動けば直撃しそうだし、動かなくてもどこかに当たる。危険だ。今はもう使えない。
くそ……なんで物理攻撃が返されるんだ!?
そもそも【ブラックホール】は【カオスエンチャント】のための魔法のはず。
こんな使い方があったのか!?
俺にも出来るのか?
あんなこと。
いや、ヤツの【ブラックホール】は何か違う。
俺のように片手を前に出して黒い渦を発生させていない。
自分の目前に発生させているようだ。
魔法も物理も無効化するのか。
ならば接近して叩くしかない。
斬られて痛む肩を我慢しながら、俺はロングブレードを構えた。
加速しようとした時、血のドラゴンは両手を前に出してきた。
刹那に発射されたのは黒く巨大な球体。
【ダークマター】だ!
その大きさは人間一人を飲み込むには十分なサイズだった。
撃たれた【ダークマター】を避けたが、地面に着弾した球体は大爆発を起こした。
そこにあった半壊した建築物が跡形もなく消し飛ぶ。
俺の【ダークマター】を遥かに越える火力を持っていた。
しかもそれを俺と同じように連射してくる。
大爆発に次ぐ大爆発が起き、爆風と爆風がぶつかり合う。
ドラゴンが使うだけでこうも違うのか!?
大砲を連射してるみたいじゃねーか!
耳がイカれそうだ!
※
立て続けに響く爆音。
それに気づいたのは、レィナが最後の一匹を仕留めた時だった。
何百といたドラゴンゾンビ群だが、SS級騎士が四人もいれば殲滅は容易い。
所詮ドラゴンゾンビはA級ドラゴンを少し強くしただけのものだから。
「……なんだ? この爆音」
レグナが言うと、ローグがオルブレイブの方を見ながら口を開いた。
「街の方からだ。誰かが戦ってる」
「さっきの遠吠えといい、なんだろ? グロリアとレミーかな?」
リイドの疑問にレィナは答える。
「分からないけれど、加勢に行きましょう!」
指示を出し、走ろうとしたその時だった。
レィナも、レグナも、リイドも、ローグも気づいた。
周囲の気配が変わったのだ。
殺気に囲まれている。
自分たちの周辺じゃない。
もっと遠くだ。
規模を大きくして言うならオルブレイブの周辺だ。
凄まじい殺気……いや! 凄まじい数の殺気だ!
全員が薄暗い遠くの景色を見た。
赤い点が見えてきた。
それは徐々に増えていき、やがてそれが何者なのか見えてきた。
「ぉ、おい……嘘だろ!?」
息子レグナが震えた声を発した。
ローグもリイドも絶句する。
当のレィナも言葉を失っていた。
遠くに見える赤い点は、ドラゴンゾンビの眼光。
何百?
そんな生易しい数ではない。
このオルブレイブを囲むほどの大群だ。
レィナにとっては悪夢の再来とも呼べる光景だった。
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