第131話 ローエVSレイゼ
「いいねぇ~、共同戦線ってやつか。面白そうじゃねぇの」
賛成の意を含めたような声音だったが、レイゼの姿勢はむしろ隙のない戦闘態勢へと変わった。
ローエやS級騎士たちはそれを見て反射的に武器を構える。
「ならまず、そこの男どもを始末して、背後の脅威を無くさなきゃなぁ?」
「なぜそうなりますの!? 彼らはわたくしの仲間ですわよ! 味方ですわ!」
「味方? じゃあそいつらの手を縛りな。労働力としてオレらに提供するなら共闘してやるよ」
「どうしてそこまで……」
「男に後ろから襲われねぇって保証がどこにあるんだ? 悪いがオレらは男と共闘する気はねぇ。提供を拒むんなら、ここで死んでもらう。やれ!」
「はっ!」
後ろに控えていた女騎士たちが一斉にS級騎士たちに襲い掛かる。
「ちょっと! おやめなさい!」
「やむを得ん! 応戦しろ!」
「了解!」
5対5の戦いが起こり、激しい剣戟の音が森に響き渡り始めた。
S級騎士たちは正当防衛だ。応戦をやめろとは言えない。
せっかく別の人類を見つけたのに、どうして戦ってるだろう。
敵は共通のドラゴンのはずなのに。
二つの勢力がぶつかるド真ん中でローエはレイゼを睨んだ。
「さて、どうすんだ? 女のあんたはやるのか? やるなら相手してやるぜ? もう仲間には入れてはやんねーけどな」
ダメですわねこの女。
こちらの話を聞かないのなら、ちょっと強引ですが……手荒に行きましょう。
ローエは無言のまま【ヴェルデリボルバー】を低めに構えた。
レイゼはそれを交戦する意思とみなし、不敵に嗤って姿勢を低くし鉤爪を構えた。
対人戦は専門外だが、心得がないわけではない。
エメラルドグリーンの瞳が、相手のダークな瞳と重なった。
互いの眼光を光らせた次の瞬間、ローエが踏み込む!
地の雪を飛散させる爆発的な加速はレイゼとの距離を一瞬で詰めた。
「なんっ!?」
予想外の速さだったのだろう。
レイゼの顔が瞬く間に驚愕の色に染まった。
もはや回避も防御も間に合わないレイゼに対し、ローエが放ったのは武器ではなく全身を使ったタックル。
オリハルコン製の肩当てを軸に体当たりされたレイゼは吹き飛んだ。
「うおあああっ!」
同じ女性で体格差もないが、装備重量に差がある。
肩も太股も露出したレイゼは軽量級ゆえにローエのタックルで簡単に吹き飛んだのだ。
レイゼは舌打ちしながら空中を回転し、受け身を取る。
果たしてすぐにローエへ突進し、鉤爪による連続攻撃を放った。
三本の斬撃が乱れ咲き視界をいっぱいにしたが、その一瞬の目眩ましを突きレイゼが背後に回ってきた。
さすがはスピード特化の軽量級騎士。
僅かだが残像さえ見えた。
だが!
「死ねっ!」
ガキィンッ!
金属音が響き、鉤爪の片割れが空へ吹き飛んだ。
それは【ヴェルデリボルバー】による弾き。
夫ゼクード直伝のパリィである。
「ぐ……っ!?」
態勢こそ崩さなかったレイゼだが、その顔色は先程までの威勢を無くしかけていた。
ローエとの実力差を感じ始めたのかもしれない。
だが認め切れないのか、残った右の鉤爪を突き出してくる。
それを見切ったローエは武器を片手持ちにし、空いた右腕でタイミングを合わして鉤爪の突きを逸らした。
鉤爪の内側を狙った突きの回避。
レイゼの剥き出しになった腹目掛けてローエは蹴りを叩き込んだ。
「ごっは!」
レイゼがよろけて後ろへ後退した。
女性の腹を蹴るのは同じ女性として些か抵抗があった。
だがあっちは殺す気満々で掛かって来てるから仕方ない。
「威勢の割には大したことありませんわね?」
「テメェ……ッ!」
言い返せない悔しさを滲ませ、レイゼはローエを睨んだ。
だが、掛かって来なかった。
ローエが武器を使ってないことに気づいているのだろう。
手加減している訳ではなかったが、結果的にはそうなった。
ローエは自分の攻撃力を把握している。
【気】を纏わせた【ヴェルデリボルバー】の一撃など人間に叩き込めば、まず原形は留めていないだろう。
ローエは人殺しをするつもりは最初からない。
こうして戦意を削ぎ、話をする。
その思惑に拍車を掛けるようにS級騎士たちが周りの女騎士たちを押し返した。
「きゃっ!」
「ぐあっ!」
「くそっ! こんなやつらに!」
倒れた女騎士たちが吐き捨てる。
ローエもレイゼに勝ち、味方もみんな女騎士たちに勝った。
完勝だ。
今のエルガンディは一人一人が強者である。
「さて、わたくし達の実力は分かったかしら? 抵抗はおやめなさい」
「ちっ! 嫌に強ぇじゃねぇか。何者だお前ら?」
「【エルガンディ】の騎士だと言ってるでしょう? それから男の彼らも、あなたの言うような男たちじゃありませんわ。信じてドラゴン討伐に協力してくれませんこと?」
「嫌だね」
!?
この女……この期に及んでまだこんな。
「女のお前ならともかく、男に背中は任せられねぇな」
「ですから。彼らはそんなことはしませんわ。わたくしが保証します」
「どうだか。オレの母はな。いきなり男に後ろから襲われてオレを生んだらしいぜ?」
え!?
それって……!
「男なんざ信じられっかよ!」
突如!
レイゼたちの足元に爆発が起きて粉雪が舞った。
どうやら自分たちの足元に魔法を放ったようだ。
粉雪はローエたちの視界を遮り、レイゼたちに逃げる隙を与えてしまう。
「くっ! あ! 待ちなさい!」
「あばよゴリラ女! せいぜい後ろに気を付けるんだな!」
「ゴ……!?」
失礼な物言いでレイゼたちは森の奥へと消えて行った。
落としていた武器も回収されている。
鮮やかな撤退だった。
「どうしましょう? 追いますか?」
S級騎士の一人が聞いてきたが、ローエは武器をしまって首を振った。
「ここは【竜軍の森】。深追いは危険ですわ。それにわたくし達の目的はドラゴンですわよ。別を当たりましょう」
「はっ!」
……わたくし達の他に生きた人間たちがいた。
それだけでも感動ものなのに、分かり合えない溝のような壁を感じた。
あのレイゼという女騎士……男に向ける憎しみの眼は本物だった。
それに何故だろう?
レイゼはゼクードに似ている気がする。
銀髪で黒い鎧を装備しているせいか?
なんにせよもう一度会って、話を聞きたい衝動に駆られた。
何故なら彼女たちは揃って【攻撃魔法】を使っていた。
彼女たちの国では、それが当たり前なのだろうか?
男は随分とロクでもないのが揃ってそうだが、一見の価値はある気がする。
なんにせよ人間同士でバカをやっている時ではない。
彼女たちを味方に引き込む方法を考えねば。
まずは夫のゼクードに相談しよう。
そして陛下たちも巻き込んで、会議をする必要もある。
そんな事を考えながらローエはS級騎士たちに同行し、ドラゴンの偵察を続行した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます