第130話 謎の女騎士たち
雪で隠れた木の根に何度か足を引っかけそうになりながら、
落ちてくる氷柱に危うく脳天を貫かれそうになりながら、
ローエは足を取られそうになる雪道を懸命に走っていた。
あぁんもうっ!
自然の罠だらけですわ!
思ったようにスピードが出せなくて腹が立った。
しかし、そんな熱した意識を一瞬で冷やす光景が見えてきた。
森の先にはS級騎士たちの姿があった。
数は四人。みんな無事のようだ。
だが様子がおかしい。
何者かと戦っているようだが……そのシルエットがどう見てもドラゴンのソレではなく人間のものだった。
え、あれは!?
ローエは目を疑った。
S級騎士たちと交戦するのは見慣れぬ鎧を装備した人間たち。
「に、人間ですわ!?」
自分たち以外の人間が、いた!?
生き残りがいたというの!?
あまりの衝撃にローエは目を限界まで広げる。
え、でも、なぜ戦ってるの!?
人間同士なのに!?
謎の人間たちは五人いる。
一人を覗き、みんな青いインナーの上に白銀の鎧を身に付けた騎士たちだ。
よく見ればその人間たちは身体の起伏に曲線が多い。
どうやら自分と同じ女騎士だと分かった。
先陣を切って前に出ている女騎士がいるが、どうにもそいつが隊長のようで、他とは装備がまるで違う。
「オラオラァッ! 見られたからには取っ捕まえてテメェら奴隷にしてやるよ!」
威勢の良い声を張り上げるその女騎士は、白銀の髪に赤い薔薇の装飾が施されたカチューシャをしている。
装備はこんな極寒の環境下で肩と太ももを露出した漆黒の鎧。
両手には武器の鉤爪。
かなり軽量級の騎士みたいだが、それに見合うフットワークの軽さが動きで窺えた。
「おいやめろ! 話を聞けっ!」
相手の攻撃を防ぎつつS級騎士の隊長が怒鳴った。
だが相手の女騎士たちが止まることはなく。
「うるせぇ! オイお前らやるぞ! 捕まえたら煮るなり焼くなり好きにしろ!」
「「「「了解!」」」」
「えぇいクソ! 話にならん! 応戦しろ! 反撃を許可する!」
「「「「はっ!」」」
まずいっ!
人間同士が潰し合ってる場合ではないのに!
思い至ったローエは一足の踏み込みに力を込めて一気に加速した。
爆発したように粉雪が舞い、ローエはS級騎士たちと女騎士たちの間に飛び込み【ヴェルデリボルバー】を振り下ろす。
「おやめなさい!」
カチンとトリガーを引き、雪の地面に直撃したハンマーが爆発を起こす。
「うおっ!?」
「レイゼ隊長!」
「おお! ローエさん!」
「来てくれたんだ!」
武器による爆発は双方の動きを止めるのには十分だった。
二つの勢力のど真ん中に降り立ったローエは、レイゼ隊長と呼ばれたゼクードみたいなカラーリングの女を見る。
「人間同士が争ってどうしますの!」
叱るように彼女に言うと、背後のS級騎士たちも怒りの声を上げる。
「そうだそうだ! 争ってる場合じゃねーだろ!」
「やめろって言ってんのに聞かないんですよコイツら!」
「オレたちは味方だぞ!」
しかし、当のレイゼは彼らの言葉などまるで聞いてない様子で、ローエを見て目を丸くしていた。
「ぉ、女? お前……なんだ? そこ居る連中の奴隷か?」
女同士……だからなのか。
レイゼの言葉使いに刺が感じられなくなった。
なんなの?
この違和感は。
いや、それよりいま彼女はなんて言った?
「……は? いきなりなんですの? 奴隷ではありませんわ」
「あ、そうなのか? っかしいな……オレの国以外の女たちは、他国で奴隷扱いされてるって聞いたんだがな」
奴隷扱い……それはもしかして、過去のエルガンディのことか?
それとも今は亡きリングレイス・オルブレイブ・アークルムのことか?
いずれにせよ、例が有りすぎる。
でも、今のエルガンディは違う。
「わたくしの故郷はそんな国じゃありませんわ」
「ふ~ん。まぁどうでもいいや。うちの国じゃ男が全員奴隷だからな」
「なっ!?」
男が全員、奴隷!?
そんな国が存在するの!?
いったいどこにそんな……。
まさか、この【竜軍の森】を越えたさらに奥にそんな文明が!?
「なぁどうだあんた」
「?」
「こうして会ったのも何かの縁だ。こっちに来ないか? 女なら大歓迎だぜ? あんたみたいな女騎士なら特にな」
まさか初対面に女というだけで勧誘されるとは。
いったいどれほどの女パラダイスな国なのか。
ちょっと面白そうだが、聞き出してみるか?
「あら……なんてお国なのかしら? 詳しく教えて頂ける?」
「こっちに来るなら教えてやるよ」
……ま、そう簡単には教えてくれませんわよね。
「あらそう……残念ですわ。それよりなぜわたくし達を攻撃しましたの? 敵はドラゴンではなくって?」
「そうだよ。この雪を降らしてるドラゴンを倒しに来たんだ。だがテメェらと鉢合わせしちまった。そいつらは男のクセになかなか良い動きをしやがる。だから捕まえて国の労働力にでもなってもらおうと思ったのさ」
「彼らはエルガンディの男性ですわ。あなたの国の男性ではないのですわよ?」
「関係ねぇよ。男は男だ」
なんて勝手な。
話が通じない相手ですわ。
どうしましょう……
味方は多い方がいいのに。
「……わたくし達もこの雪の元凶であるドラゴンを倒しに来てるのですわ。攻撃してきた事は不問にしますから、今は人間同士で協力しませんこと?」
言ってからローエはS級騎士たちのみんなが不満を言ってこないか不安になった。
攻撃されたのは彼ら。
それを自分が勝手に不問にしているのだから、文句の一つでも出ると思ったのだ。
しかしそこはさすがエルガンディのS級騎士たち。
事態の把握をしているからか、不満一つ漏らさなかった。
だが……
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