第125話 ハーレムとは

 各隊は準備を整えて就寝し、次の日の朝になった。


【フォルス隊】

【第4番騎士隊】

【第7番騎士隊】

【第12番騎士隊】

【第18番騎士隊】


 5個の騎士隊は『ヨコアナ』を出撃し、南西にある【竜軍の森】へと向かう。

 だがしかし、馬の使用は許可されなかった。

 それも仕方なく、馬は雪で当然のように転ぶし、寒さによる消耗も激しい。最悪凍死してしまうこともあるのだ。


【竜軍の森】も馬足でなら1日で着くのだが、この雪道を一日中走らせるわけにはいかない。

 総勢20人もいるなら徒歩の方が良いと、今回は防寒コートを羽織っての歩きでの進軍となる。


「【竜軍の森】かぁ……今となっては懐かしいね」


 俺の斜め後ろを歩くフランベールが言った。

 すると真後ろのローエが「ええ、本当に……」と同意する。


「でももう、あの時のわたくし達ではありませんわ」


「うん、そうだね。わたし達もう家族だし。子供もいるし。あの時とは違うよね!」


 いや、フラン。

 ローエが言いたいのはそういうことじゃないと思うぞ?

 2年前のあの時より強くなったって意味だと思うが。


「いえ、フラン。わたくしが言いたいのはそういうことではなくて……」


「地下生活だけどわたし、家族と過ごせる毎日が凄い幸せ。あの時とは本当に何もかもが違うもの」


「……なんか最近のフランって、幸せ過ぎて天然に拍車が掛かってきてるよな」


 俺はローエの隣にまで歩調を合わせて言った。


「わたくしもそう思いますわ」


「どうしたの二人とも?」


「なんでもない」

「なんでもないですわ」


 俺とローエは息ピッタリに首を振った。



【竜軍の森】までの道程を半分ほど終えて、俺達は進軍を中断しキャンプを張ることにした。

 雪原のど真ん中だが、これだけ人数がいれば見張りも配りやすい。


 それぞれの隊で食事を済ませ、見張り役を一人配置し、残りはテントで休む。


 俺はローエたちをテントで休ませ、見張り役を買って出た。

 やはりこーいう場面は男としての見せ場でもあるのだ。


 見張りをしながらも、キャンプの中央には焚き火がある。

 夜の寒さは半端でなく、その焚き火に手を出してみんなで寒さを凌いだ。


 すると一人の騎士が口を開く。 


「おれさ。今回の任務で手柄を立てて彼女にプロポーズするつもりなんだ」


「マジかよ! ついにか!」


「まぁせいぜい頑張れよ」


「張り切り過ぎて死ぬなよ?」


「死ぬかよ!」


 なんか如何にもこれから死にそうな事を言い出す彼らに、俺は思わず口を挟んだ。


「ちょちょみんな。手柄を立てようするのは分かるけど、功を焦って死んじゃダメだからな? 本当に」


「わかってますって~」


「俺達だって過去のことは忘れてませんよ」


「多くの魂を背負って、おれ達はここに立ってますからね」


 ……だったらいいけど。

 まぁ、彼らの顔を見れば、案外と冷静なのは分かる。


「あの、ゼクードさん」


「うん?」


 俺を呼んだのは若い騎士だった。

 でも俺より年上そう。


「おれもいつか、ゼクードさんのようなハーレムを築きたいんですが、彼女が嫌がるんです。どうすれば良いでしょうか?」


 あぁ、この手の話か。

 今までも何人か居たな。

 俺みたいなハーレムがしたいって相談は。


「彼女さんがいるのか?」


「ええ。まだ一人ですけれど。やっぱり男としてビシッと言った方がいいですか?」


「いや。だったらその子を大切にしてあげた方がぜったいに良い」


「え? でもおれ、ゼクードさんみたいなハーレムに憧れてるんです。あれこそ男の夢じゃないですか」


「彼女さんが嫌がってるなら止めた方がいいよ。でないとハーレムどころか、その彼女さんにも見放されるぞ?」


「で、でも……おれ……」


「気持ちは分かるよ。俺も男だからね。……でも俺は、運が良かっただけなんだよ」


「え!?」っと焚き火を囲む騎士のみんなが驚いた。


「みんな知ってると思うけど、俺の嫁はみんな仲が良いだろ?」


「ええ、凄く……」


「だから上手くいってるだけなんだ。ハーレムって、実は女性陣の心が一つになって初めて成功するものなんだ」


「女性陣の心……」


「うちのローエも最初は君の彼女さんと同じでハーレムを嫌がっていたよ」


「あのローエさんが? そんな素振りはまったく……」


「今でこそは、ね。ローエの心を変えてくれたのは他でもないカティアとフランベールなんだ」


「え!? ゼクードさんじゃないんですか!?」


「俺は何もしてないよ」


 言って、俺は吐く息が白くなる夜空を見上げた。


「……むしろ俺はあの時、彼女に不安だけを植え付けて……無責任なことをしてしまったと今では思ってる」


「無責任なこと?」


 そう聞かれて俺は「若気の至りってやつかな」っと苦笑するしかなかった。


「とにかくハーレムってのは男だけの一存でうまくいくものじゃない。女性陣が認め合って、ずっと一緒に居てもいいと思わないとダメなんだ。ものすごく難しいんだよ」


 視線を落とした俺は、パチパチと弾ける焚き火を見つめた。


「……あと、カティアとフランベールはもともと母親が複数いる家庭に育ってたから、そういったことに抵抗がなかったことも大きい。フランベールだけじゃローエの心を動かせなかったかもしれない。カティアだけでも同じだ。だから俺は、自分は凄く恵まれていたと思ってる」


「運が良いって言うのはそういう意味ですか」


「うん。ぜんぶ妻たちのおかげなんだ。本当に」


 笑って言うと、他の騎士たちがニヤニヤして口を割ってきた。


「さっすが。リアルハーレムを築いてる人は言うことが違いますなぁ」


「ほんっと羨ましいですよ。嫁さんも揃って美人だし」


「はは、良いだろ? 俺の最高の自慢さ」


 胸を張って誇ると騎士たちは笑った。

 見張り役が揃って音を立てるという愚行だが、ドラゴンの気配さえない今は良いだろうと思った。


「ゼクードさん。ありがとうございます」


 最初に相談してきた騎士が俺に御辞儀をしてきた。


「おれ、自分の彼女を大切にしようと思います」


「うん。それがいい」

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