第200話 なんだって?

 俺はカーティスに事の発端を告げた。

 オフィーリアがカティアを奥さんだと勘違いしたことを。


「勘違い!?」


 驚愕するカーティスに俺はコクコクと頷いた。


「そうそう。だから言ったじゃん。見る人が見れば恋人にも見えるって」


「いや、しかし……」


「しかしもカカシもなーい。オフィーリアちゃんメチャクチャ泣いてたぞ?」


「……なんでそんなことで泣くんだ」


「好きだからに決まってるじゃないですか!」


 迷いのない一言だった。

 ハッキリと言い切られ、さすがのカーティスも顔を赤くした。


「約束ですよカーティスさん! わたし、ちゃんとSS級騎士になりました! 付き合ってください!」


「わかった」


 そこは即答なんだなカーティス!


「約束だからな」


「じゃ、じゃあ!」


「ああ。これからよろしくな。オフィーリア。……まったく大した根性だよお前は」


 感心したようにカーティスが笑った。

 おそらくカーティスはオフィーリアがSS級騎士にまで上がってくるとは思ってもなかったのだろう。


 当のオフィーリアはカーティスの笑顔を見て、また泣き出した。

 

「おい、なんで泣く?」


「嬉しくて……」


 感極まったらしいオフィーリアは、カーティスに寄り添った。

 泣くオフィーリアに胸を貸そうとするカーティスを尻目に、俺は邪魔にならないようその場を去った。



「──てことがあってさ~」


 俺は人が往来する街の広場に来ていた。

 その広場にあるベンチで休んでいたローエ・カティア・フランベールを発見し、今に至る。


 聞けばグロリアとレミーベールはグリータの呼び出しがあったとか。


「そうか……私が恋人だと勘違いされたのか。悪いことをしたな」


 オフィーリアの事を知ったカティアが腕を組んでそう答える。

 しかし俺はカティアたちが座るベンチの前で肩を竦めた。


「んー、まぁ、でもカティアが悪いかって言われるとそうでもないけどな」


「ふむ……ま、それはもう解決したことだ。問題は思ったより早く孫が出来るかもしれんということだ」


 孫!?

 また気が早いなカティアは。


「それですわ」

「それだよね」


 お前らもかーい。


 まぁでも、確かにあのオフィーリアちゃんは凄く積極的だし、あっという間にカーティスが襲われて子供を作っちゃうかもしれないな。


 でも待てよ?

 オフィーリアちゃんが赤ちゃん生んだら、俺はお爺ちゃんだ。


 あれ?

 俺いま何歳だったっけ?

 35歳? いや17歳。


「あ~……俺17歳でお爺ちゃんになるのか」


 たぶん人類史上初の10代お爺ちゃんだな。

 あんま嬉しくないけど。


「わたくしは19でお婆ちゃんですわ」


「グロリアの言うとおり我々は本当にババァだな」


 カティアの返しにみんなで笑った。


「そういえばカティアさん……オフィーリアちゃんの事は認めるの?」


「ん? どういう意味だフラン?」


「やっぱり息子のお嫁さんになるかもしれない子だから、なにかそういうカティアさんなりの条件とかあるのかなって思って」


 あーなるほど。

 こうでなければ娘はやらん! 的なやつね。

 いやカティアの場合は息子だが。


「なんだそんなことか。そこはカーティスの勝手だろう。よほどの女でもない限り口は出さんさ。それに聞けばそのオフィーリアという娘も、カーティスの嫁になりたい一心でSS級騎士にまで上がった娘だろ? 大した根性じゃないか。私はオフィーリアなら口は出さん。カーティスを幸せにしてくれるだろうからな」


「意外と寛大ですわね?」


「ふ……そういうお前はグロリアに何が条件を出すのか?」


「当然ですわ。ちゃんとグロリアだけを愛してくれる男性でなければ許しませんわ! 他の女に目移りするような男にロクなのがいませんもの!」


「それ俺に言ってる?」


「さぁ?」


「こっち見て言ってくれませんかねローエさん?」


「フランはどうなんですの?」


 あ、

 スルーされた。

 クソォ。


「んーわたしもローエさんと同じかなぁ。やっぱり女の子だと話が違ってくるし……」


「ですわよねぇ……」


「ふむ……女の子なら確かに。わからんでもない」


 カティアも否定はしなかった。

 男の子の母親と、

 女の子の母親。

 やっぱり考え方もちょっと違ってくるんだな。


「あ! 居た居た。お父さん! お母さん!」


 往来する人を避けて現れたのはグロリアだった。



 そのままグロリアに案内されたのは【南の領地】にある大きな館の前。

 石造りの二階建てで、昔俺が住んでいた家の4倍ある。

 すげぇ。


「グリータ団長からで、今日からここに住めってさ」


 グリータからの粋な計らいだったらしい。

 助かった。四人なら十分に暮らせる大きな館だ。

 これからもグリータには頭が上がらないな。


「立派な家だな。いいのか?」


 俺が聞くとグロリアは笑った。


「遠慮なく使えって言ってたよ。団長も遠慮なくお父さんをコキ使うからって言ってた」


「なるほどね」


 ありがたい。

 コキ使ってくれるならその方が引け目を感じなくていいや。


「それからお父さん」


「ん?」


 グロリアはそっと母親たちを一瞥した。

 当のローエたちは新しい住居に感動して、三人で眺めながら感想を言い合っている。


 それを確認したグロリアは、俺の耳元で囁いた。


「この家……けっこう壁が分厚く作られてるみたいなの。声とか漏れにくいんだって」


「ほう?」


「お母さんたちとの【夜の営み】も外に漏れないからバッチリだって」


 !


「……マジで?」


「マジで」


 さすがグロリア。

 女の子でも俺の娘だな。

 俺の一番ほしい情報をくれた。


 そうか防音性能の高い館か。

 これは素晴らしい。

 さすがだぜグリータ。ありがとう!


「そうか。良い情報ありがとうグロリア。それは俺にとって死活問題だからな。助かるよ」


「死活問題なんだ」


「死活問題だ。若くて体力がある内にたくさんイチャイチャしときたいしな!」


「……スケベ親父」


「なんだって?」


「なんでもない」

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